【A】3/15登場分(4+3報)

[2303.07817] Arrhenius temperature dependence of the crystallization time of deeply supercooled liquids

過冷却液体の結晶化ダイナミクスは古典核生成理論で説明できるやろ!という風潮に疑義を投げかける論文.

古典核生成理論によると,過冷却液体の温度が低くなりガラス転移点に近づいてくるとα緩和時間よりも長い時間をかけて結晶化が起こるということを予言する.

つまり,核生成時間がいわゆるsuper-Arrhenius的な温度依存性を示すことが期待される.

この論文ではこの点を検証してみると全然そんなことはなくArrhenius的に時間が増大していくことが示されている.

 

興味深いことに結晶化が簡単に起こる単分散系(粒径がすべて同一の粒子で構成された系)とほぼ同じようなセットアップやけど粒子径に分布が存在する系のダイナミクスの比較を行っている.

この2つの系は全然違うやんけ,という気もするが実はそいつらのα緩和時間は同一の曲線に乗っており,結晶化しちゃってα緩和時間が測定できなくなる温度が異なるという結果も示されている.

こいつらの結果を比較して

1:結晶化が起きない系では高温で活性化エネルギーが1程度,低温で6.5程度になる

2: 結晶化が起きる系では結晶化傾向が観察されるブランチで活性化エネルギーが0.16程度になる

ことが示されている.つまり結晶化が進行する際のエネルギー障壁は高温での液体のダイナミクス(が仮に活性化過程だと思って測定したとき)の活性化エネルギーよりも一桁程度も小さいということがわかる.

 

この不思議な傾向をよく理解するために多分散系(粒径分布がある系)・単分散系双方んちういて構造緩和過程を詳細に解析している.

特に,結晶化がα緩和時間より桁違いに早く進行することから結晶化がいわゆる過冷却液体の"平衡"ダイナミクスには支配されておらずaging過程で進行しているのだろうということがわかるので,過冷却液体のaging過程の構造緩和と結晶化過程の比較を行っている.

より具体的には,aging過程(過冷却液体が時間並進対称性を復元する前の状態:たぶん冷却直後の配置を初期状態にしての数値計算結果を用いている)を対象にOverlap関数(密度相関のようなもの)を測定している.

この関数の減衰のようすを初期過程・後期過程に分離して緩和時間の見積もりを行うことで結晶化系特有の結晶化と緩和のシナジー効果のようなものが起こっていることを明らかにしている.

 

[2303.07870] Nature of Subdiffusion Crossover in Molecular Glass-Formers

過冷却液体中の構成要素の自己拡散現象は観察対象とする時間/長さスケールに依存して色んな振る舞いを見せる.

例えばコロイド分散系では非Fick的な拡散からFick的な拡散に変化するがFick的になったあとも非Gauss的ではあり続けるという報告がある(これはちょっと前に色々盛り上がっていたが...).

一方,分子ガラスやポリマーガラスの場合は非GaussからGauss的に変化するが依然として非Fick的なsubdiffusiveな振る舞いを続けたりするらしい.

この論文では非Gauss的fractional Brownian motionのFokker-Planck方程式を立てて後者の現象を再現することに成功したらしい.

非Gauss領域でvan Hove関数に見られる特徴的なexponential tailも説明できたらしい.

この結果を肯定的に受け止めると,今後はfractional Brownianが何を反映しているか,という論点に変わる感じか?

 

非常に面白い内容だったがアルファベット数文字の略語が多すぎてパニックだった.

原稿を人に読んでもらったときにこの点を指摘されることがたまにあったが,気持ちがよくわかった.

以後気をつけたい.

 

[2303.07718] An algebraic thixotropic elasto-viscoplastic constitutive equation describing pre-yielding solid and post-yielding liquid behaviours

構造の立脚してthixotropic non-linear elasto-viscoplastic constitutive modelを提案した論文ぽい.

Oldroydのモデルはyield前の状態に対して準静的な変形という理想的な仮定が置かれており降伏前の細かな塑性変形や散逸の効果が無視されていたがそこを少し一般化したらしい.

Plastic strainを変数として陽にincludeした式1を出発点にしたところがポイントか?

 

OldroydといえばOldroyd-B modelしか知らなかったが,それとは違うモデルの話のようだ(Oldroydのオリジナルの式は出てこないがたぶん違う).

最終的に複雑といえば複雑だが最終的に4章のケーススタディで出てくる式もそこそこ綺麗な式になっている.

色んな非自明な振る舞いを実験結果と網羅的に比較していて,割とよく合っている.

こういう複雑な系の話はあまりちゃんと知らなかったがめっちゃ面白いのではないか?

 

[2303.07731] Nature of the order parameter of glass

Nature of なんとか of glassというタイトルの論文がもう一報出ていた.

本質的に非平衡なガラスにおいてはそもそも状態量を定義するのが難しいけど時間平均として状態量を定義しましょうね,という話と,ガラスにおいては平衡位置というものが状態量でありかつ秩序変数だよという議論を展開しているらしい.

 

# Active matter系も色々出ていた

[2303.07746] Flocking without alignment interactions in attractive active Brownian particles

 

[2303.07843] Structure and diffusion of active-passive binary mixtures in a single-file

 

[2303.07880] Run-and-tumble motion in a linear ratchet potential: analytic solution, power extraction and first-passage properties