【A】4/24登場分(3報)
[2304.11152] Universal scaling function ansatz for finite-temperature jamming
何かの本のChapterのようなフォーマットだが,それについての言及なし.
内容もReviewというより新しい話という感じなので何かの特集号か?
有限温度下でのJamming転移を考えると4つの異なる相が現れるらしいが,これらが一つのscaling式で表現できるという話.
しかしscaling collapseさせるような図は存在しない...
ブランチが2つ出てくるが,それぞれが従うscaling指数が異なるという面白い性質があるらしい.
[2304.11100] Jamming, relaxation, and memory in a structureless glass former
Mari-Kurchan模型と動的平均場の比較をするという論文らしい.
Gibbsパラドックスについての話.
理想気体のエントロピーが相加的なものではないという立場で理解しようという論文.
【A】4/10登場分(6報)
[2304.03306] Route to turbulence via oscillatory states in polar active fluid under confinement
ゴリゴリの数値計算で厄介な非線形方程式を任意のconfinementの中で計算できるようにしてBacterial turbulenceの発生の様子を調べた論文.
特に円形のconfinementの中でのactive乱流発生の様子はconventionalな粘性乱流発生過程とは異なっていたらしい.
バクテリア分散系が持つ非自明な境界条件は実験事実を援用して設定している.
速度に加えて渦度もゼロになるべきというStick boundaryになるらしい.
計算対象の方程式はpolar active tubulenceをうまく表現できることが知られているらしいToner-Tu-Swift-Hohenberg方程式というもの.その名の通りToner-TuモデルにSwift-Hohenberg的な項がくっついている.
この方程式はNavier-StokesよりもややこしいのでConfinement中で解くのは特に結構厄介だが,confinementの影響をうまくdamping termでモデル化して近似的に解いている.
擬スペクトル法+confinementということで何も処理しないとaliasingが出てしまったりするようだがlow-pass filter等で処理もしているらしい.
特別実験で「実験が嫌やから数値計算がんばります!」から一年とかでここまでいったという話なので驚き.
図1だけでも見てくださいの意味がよくわかる図1だった.
Squirmer modelの直接数値計算でもbacterial turbulenceっぽいエネルギースペクトル見えたでという論文.
格子ボルツマンで100000個オーダーのSquirmer系の計算を頑張ったということですごい.
体積分率が10%程度ということなので,システムサイズは途方もなく大きい(らしい).
流石にSwimming parameterまでは振っておらずという強pusher条件で計算しているらしい.
Raynolds数も0.01程度と結構小さいし,数値計算はかなり大変そう.
数日前のこの論文に引き続きこれが令和のMicroswimmer数値計算論文かぁという感じ.
[2304.03630] Noise-induced quenched disorder in dense active systems
タイトルを見て「え?」と思ったがスピングラスとかでいうところのquenched disorderとは違う意味で使っているっぽい?
[2304.03554] Microscopic singularity of an entropic force in stochastic order parameter dynamics
二次元以上の空間次元のモデルAではエントロピー力が紫外発散することが示されているらしい.
これはマクロな測定量である界面の伝播速度がミクロなカットオフに依存するということを意味するらしい.
[2304.03661] The boson peak in the vibrational spectra of glasses
ガラスの低周波モードの特異性について統一的な見解を得たという論文.
すでにそれなりの知見が得られていたのだと思っていたが,低周波物性職人のこの著者には物足りなかったらしい.
この著者はここ数年低周波モードの話を徹底的に追いかけ続けていて本当にすごい.
【A】4/6&7登場分(3報)
[2304.02411] Quantum Mpemba effect in a quantum dot with reservoirs
熱い水の方が冷たい水よりも短時間で凍ることがあるというムペンバ効果を量子系で調べたという論文.
2つの論点を挙げて面白い進展を与えているらしい.
量子ムペンバ効果の研究自体はこれまでもなかったわかではないらしいが,これまでは密度行列から構成した平衡状態からの"ズレ"のようなエントロピー的な観点での研究が多く温度に注目したもの(熱的な量子ムペンバ効果と表現されている)がなかったという点が著者らの問題意識の1点目.確かにムペンバ効果といえば熱いのが冷たいのより速く凍るという話がオリジナルなので温度で議論するのが自然かもしれない.この論文ではこうした熱的な量子ムペンバ効果が観察され得ることが示されている.
2点目の論点が特に面白くて,量子にせよ古典にせよマルコフ系でムペンバ効果を議論する際はマスター方程式の遷移行列が持つ最も遅い緩和モードのみに注目した議論がなされていた点に問題式を持っている.これは長時間極限に注目すると最もらしい議論のような気もするが今回の論文のセットアップではむしろこのモードがムペンバ効果とは無関係になるらしい.不思議だ.
ちなみに日本語ではなぜかムペンバという読みで定着してしまっているが,英語でははじめのmは発音せずペンバとなるそうなので注意が必要かもしれない.
[2304.02215] Early-Stage Bifurcation of Crystallization in a Sphere
物質の結晶状態はいくつかのパターンがありえるが,そのうちのどれが実現するかが実は熱力学的安定性だけでは決まりませんね,という話.
熱力学と動力学(と訳すのか?kinetics)の競合などもあり単純に熱力学的再安定状態にはならないという話.このあたりは少しガラスにも似た話だなという感じ.
実際金属ガラスの局所的秩序構造として知られる正二十面体云々という話も出てくる.
粒子数が少ない場合は表面の寄与も大きくなるのでバルクと異なることもあるという話もあるが,この論文では小さいdroplet中でのコロイド粒子の結晶構造を観察している.
[2304.01393] Every Author as First Author
著者順に起因した争いを消し去るための方法(超力技)の提案.
これによってEqually-contributedとか書く必要がなくなる...か...
【A】4/4&5登場分(6報)
[2304.00580] Nobel Lecture: Multiple equilibria
Review of Modern Physicsに出るやつかな?
[2304.00316] Rheology of active fluids
Out-of-Equilibrium Soft Matter: Active Fluidsという本の1ChapterがまるまるarXivに上がっているらしい.
二次元で流体力学的相互作用(Stokes近似していると式では書いているが数値計算はレイノルズ数0.5でNavier-Stokesを解いている)と"燃料"の濃度場(移流拡散方程式)をちゃんと解きながらJanus粒子的なものの数値計算をして濃度とActivenessを振って相図を書いたという論文.
Activenessの大きさに応じて
結晶(Wigner結晶的な感じ)→流体,流体内では層流→乱流という転移が観察されたということらしい.
粒子あたり格子点数という意味での解像度もそこそこ大きめ(たぶん15)にとっているし,結構大規模(粒子数10000くらいとか?)に計算していてすごい.
数値的には埋め込み境界+格子ボルツマンという一般的解法で扱っている.
燃料を使って駆動される機構は粒子表面において界面に垂直な濃度変化と,表面に沿った流れ場で表現しているらしい.
[2304.01645] Generic symmetry-breaking motility in active fluids
Active fluidに対称なporus objectを浸けたら速度方向の負のdragの影響で自発的に運動性を持ちうるという話らしい.
これまでの研究ではbackgroundのactive fluidがpolarあるいはnematicな秩序を形成していることが前提とされていたが,この研究ではそんなorderなくても運動性を獲得できそうなことを平均場解析で示したらしい.
そんなことがあってもよいのか?
面白そうな話だ.
[2304.01335] Charting the Topography of the Neural Network Landscape with Thermal-Like Noise
Neural networkの学習時に現れる損失関数地形をエネルギーランドスケープやと思ってLangevin dynamicsでさまよってみる話.
対象にするのはoverparameterizeされた全結合のネットワークを使ったランダムデータの分類問題.
Harmonic近似みたいなものは本質的に地形の底の情報を表現するには不十分だみたいな話があるらしい.
原因は底付近では曲率が0に近づいているからということらしいが,これは学習界隈では結構色々言われているみたいで面白い.
Abstractだけからは正直何を言っているかわからなかったが構造ガラス系と似た部分と全然違う部分がありそうで面白いし一度この辺の話は整理してみたいなという気持ちになった.
[2304.01714] Thermodynamic bound on spectral perturbations
非平衡定常状態の緩和等の情報はrate matrixが持つ固有値で網羅的に得られる.
こうした固有値の分布はrate matrixのspectrumと呼ばれるそうだが,この論文ではこのspectrumと非平衡定常状態におけるエントロピー生成率(?と日本語で言うのか?entropy production rate)の間の関係を示したらしい.
Additive reversiblizationという概念がめっちゃ重要そうだ.
【A】4/3登場分(1報)
[2303.17871] Zero-point entropies of spin-jam and spin-glass states in a frustrated magnet
spin-jamという概念(論文1, 2, 3)があるのを知らなかった.
量子ゆらぎが効いてくるような相のことらしく,スピングラス相とはエネルギー地形のトポロジーが違うそうな.
spin-jam相では量子ゆらぎの効果でエネルギー地形の底が階層性を持たずちょっとでこぼこしただけのflatなものになっているらしい.
この論文では実験的にという物質を調べ,ごく低温ではspin-glassとspin-jamが混ざった状態になっていると結論づけているらしい?
【A】3/31登場分(5+1報)
なんと驚いたことに今日で2022年度が終わりですって.
粉体のsegregation(異なるサイズ混ぜて擾乱加えたらサイズごとに相分離したりする現象のことを指しているはず:ブラジルナッツ効果とかが有名か?)はよく知られているけど内部構造ちゃんと見た研究なかったし正直よくわからんくない?見るわ!という論文.
粒子を直方体型のcontainerの底(4cm×40cmの長方形)に敷き詰めた擬二次元系セットアップで水平方向に振動させてパターン形成過程をミクロにマクロにしっかり観察しているらしい.
時空間パターンをうまく可視化してあげると(ここの詳細はわからなかった:空間方向は底面の中央部だけを見てる?)シェルピンスキーガスケット的なパターンが形成されていることがわかったらしい!!
そのほかにも特徴的なパターンがいくつかあるらしく,相図は結構複雑.
目的であった詳細な解析で得られた知見から構築した現象論的な数理模型でいい感じにシェルピンスキー相も含む様々な相の再現もできている!!!
このグループは今回の学会で発表していた内容もめっちゃ面白かったし,ユニークな実験をうまく料理していてすごい.
[2303.17227] Microscopic derivation of nonlinear fluctuating hydrodynamics for crystalline solid
結晶では連続並進対称性が破れているので流体とは異なり大事なslow variablesがmass,momentum,energyだけじゃ足りず,変位場が重要なslow variableとして弾性を記述することになるという話がある(チェイキンルベンスキーにも書いてある).
この論文ではそうした関係式のミクロなHamiltonianからの導出を行ったというのが主結果らしい.
同様の試みを行った先行研究では結晶系を記述する上で大事な変位場の定義が線形化した方程式でしか正当化されないものになっていたため,非線形項の効果も正確に表現可能な(これまで知られている現象論的式に整合するということ?)異なる定義を与えたということらしい.
良い仕事だし,お師匠さんの流れを汲んでいるのも熱い.
ちなみに結晶のような対称性の破れがなさそうなアモルファス系の弾性はemergent gauge theoryで理解しようぜという話がある.
Elastically Collective Non-linear Langevin Equation理論(ECNLE理論)というものがあるらしい.
モード結合理論(MCT)の拡張のような理論なのか?
localな力に基づいて活性化ダイナミクスぽく系の記述を試みる理論という感じ?
知らない話ばかりや.
[2303.16910] Strain correlations in isotropic elastic bodies
二次元の等方弾性体のひずみの相関関数は方向依存性を持つことをしっかり示したという論文か?
以前学会でO信田さんに教えていただいて感動した話とかなり近いような気がする.
[2303.17016] Jarzynski equality for time-averaged work
昨日の論文と同じ人による少し見方を換えた等式の証明.
[2303.17022] Active Brownian Particles in Random and Porous Environments
【A】3/30登場分(5+1報)
機械学習を行い際は手元にあるトレーニングデータから推定モデルを構築するわけだが,注意しないとトレーニングデータに過適合したモデルが得られてしまう.
そのため実用上はregularizationという作業を行って,そうした過適合が起きにくいように工夫をする.
この論文では最尤推定を行うときのregularizationを対象にそのperformanceについての理論的な保証を与えているらしい.
誤り訂正符号での成功を参考にしてKullback-Leibler divergenceのゲージ対称性に注目しているということらしい.
めっちゃくちゃ面白そう.
[2303.16880] The Hidden-Manifold Hopfield Model and a learning phase transition
相関ありデータを扱うためのHopfield模型の拡張の提案.
IntroにこれまでのHopfield模型の拡張の歴史が簡単にまとめられていて良さそう.
[2303.16337] Jarzynski equality for quasistatic work
ジャルジンスキ等式の自由エネルギー差の部分を準静断熱過程での仕事の平均に置き換えたような式を証明したよ,よという論文.
対象は熱的孤立系.
自由エネルギー差が目的系の準静断熱過程での仕事と同じになるような等温操作を行う形を考えて証明している.
このとき等温操作は準静断熱過程を行う前の目的系(平衡状態にあると思っている)の温度にしている.
ちょっと不思議な感じがする結果なので導出が気になったが,大事な14式くらいから未定義文字が出てきてついていけなくなってしまった...
引用文献数5でちょっとワロタ.
Multimodal Deep Learning(MDL)という手法を用いて10次元の組成情報についてのinputから8つの物性値を高精度で予測できるようにしている.
対象はアクリルポリマーらしい.
ここでのMDLという手法ではまず3種類の敵対的生成ネットワーク(GAN),OM-GAN,IR-GAN,Raman-GANを用いてopitical microscope, IR, Raman分析の結果を予測し,その後それらの情報を統合することで高精度の物性予測に成功しているらしい.
面白い手法だし他のタスクにも転用可能かもしれない.
[2303.16258] Optimisation via encodings: a renormalisation group perspective
数理最適化問題を扱う際に探索対象の位相空間的なものをいい感じにsubsetに分けてうなく解いてやろうという手法提案.
subsetから元の問題を再構築?する際に繰り込み的な考え方が持ち込まれるということか?