【A】3/7登場分(3報)

 

[2303.02818] Cell-sized confinements alter molecular diffusion in concentrated polymer solutions due to length-dependent wetting of polymers

細胞サイズの膜の中にポリマーを閉じ込めると相分離現象が観察されることが以前報告されていたが(論文12:さらに数値計算も),この現象について知見が深まったという論文.

既報では2つのポリマー成分の混合系でこうした現象が報告されていたが,この論文では1成分系でも同様の不均一性が生じることが示されている.

 

2成分系での当該現象を対象にした実験・数値計算の結果から短い鎖長のポリマーの方が高い膜濡れ性を示すため,短い鎖は膜表面に,長い鎖は中心部に集まる傾向があることがわかっていたらしい.

そこで1成分系でもポリマー鎖長に分布があったら閉じ込め効果による相分離が起こるのではないか?という仮設を立て,それを実際に検証している.

 

膜でできた液滴のサイズを変化させながら液滴内の拡散性を細かく測定し,閉じ込めによる相分離のようすを調べている.

結果として,異常拡散の度合い・回転拡散には閉じ込め効果が観察されない一方,並進拡散はあるサイズ(細胞と同程度の20ミクロンくらい)より小さな系では顕著に小さくなることが報告されている.

この拡散性の変化が相分離(つまり中心付近への長鎖長ポリマーの局在:こいつらは高粘度やし形成するメッシュも小さい)に因るものであることを示すために追加で短い鎖を注入したり工夫も凝らしている.

濡れ性の評価を行うためにこの論文でもMD計算が実施されている.

めちゃくちゃ難しい系なのに着々と理解が進んでいてすごい.

 

 

[2303.02210] Modeling growing confluent tissues using a lattice Boltzmann method: interface stability and fluctuations

Confluentやのにgrowingなん?と思ったが縦方向にみちみちで,横方向に成長していく過程を想定しているらしい.こういうときにもconfluentと言うのか...

 

こういう系を数理モデリングしてもこれまでは大きなシステムサイズの挙動を見るのがなかなか難しかったそうだがこの論文では格子ボルツマン法を用いたアプローチを提案して巨大なサイズも相手にできるようにしたらしい.

そして細胞組織の界面成長のようすを観察してあげるとKPZ普遍性クラスと思しきscalingが観察されたらしい(Bulk driven growthというstateの場合).

細胞分裂が成長エッジに局在している場合は別のinstabilityがでてくることも発見したらしく,それを説明する理論も提案できたらしい.

 

知識がなさすぎて①細胞組織のモデリングとしての妥当性,②今回のsetupの下で界面成長がKPZになる非自明さ,という大事な2点が理解できなかったが,それぞれが十分だったらめちゃくちゃおもしろい結果だと思う.

HeLa細胞のコロニー成長のようすがKPZだという話があると竹内さんの物性研究の資料でも紹介があったが,この論文の語り口的には完全にはコンセンサスが取れてはいなかったよということなのかもしれない?

いい感じの数理モデリングを行って検証してみたらやっぱりKPZぽかったというのが前半の主結果か?

 

 

[2303.03057] Hamiltonian Dynamics and Structural States in Two-Dimensional Active Systems

二次元のmicroswimmer系を考えると,非圧縮条件もあいまって流れ場がstreamfunctionを使って書けるはずなので有効Hamiltonian記述できるでしょ,という論文(xとyが共役になる).

特異点的なものはleading orderについてのみ見てもStressletとRotletが存在するが,この論文では前者にfocusしている.

こういうアプローチで流体力学的相互作用による多体系の集団運動特性のようなものを数値計算で調べたり線形安定性解析を行ったりしているぽい.

最終的にシステムはエスカレーターstateと著者らが呼ぶ独特の集団運動パターンを見せるらしい.

 

アプローチはユニークで面白いが,Microswimmersの集団運動特性にはfar-fieldの影響は効いてこず実効的な衝突ダイナミクスが大事という話があるので(論文12),素朴により現実的なmicroswimmers系に拡張しても今回の話のような現象は観察されにくいのではないかと感じた.

エスカレーターstateは少なくとも僕は見たことがありませんが,粒子の大きさも考慮した場合にはトルクの影響によって不安定化されてしまうような気がする.

どういう状況をうまく記述するのかという観点で,もう少し詳細な模型の結果と比較して対応領域が見つかったら素晴らしいなと感じた.