【A&Z】統計物理のメガネで見る食卓・『ロミオとジュリエット』
Zは雑記という意味です.
本エントリーでは今週リリースとなったarxiv論文を題材に徒然なるままに思ったことを書いてみます.
今週はエイプリルフールが間に挟まっていたためか,少しユニークな論文が2報あがっていました.
(毎日真面目に全部観察していたら普段からあるのかもしれませんが)
以下の2報がそうです:
[2203.13246] Love might be a second-order phase transition
[2203.16580] What's for Lunch? A systematic ordering of foods in the Soup-Salad-Sandwich phase space
1つ目はこちらのエントリーでも取り上げた論文です.
以下,それぞれ少し内容を説明します.
(以下では自然と文体が変わっていました)
恋愛感情は二次転移?
1つ目の論文は『愛』を統計力学的に扱おうというユニークな論文.
内容としては愛は二次転移で記述できるという仮説に基づき『実験』によってこの仮説を検証していくというもの.
この仮説の出どころは『脳は臨界点付近に制御された状態にあるのかどうか論争』らしい.
この臨界性が云々という話はそもそも,脳内のニューロン発火に伴う電位測定か何かの結果(この辺は文脈からの予想であって完全に適当です)がいわゆるゆらぎを示したという実験結果に端を発するらしい.
こうしたベキ的な振る舞いは素朴には臨界性を期待させるが,殊,ネットワーク系においては臨界性がなくてもゆらぎが観察されることが知られており,臨界性が脳機能にとって重要かどうかという論争が続いているらしい(注:脳みそは自然界におけるニューラルネットワークの代表例).
本論文では具体的に臨界性を利用した脳機能の一つの例として愛が挙げられるのではないかと主張している(つまり臨界性肯定派に立つのかな?).
特にいわゆる『一目惚れ』は外場のないときの二次転移で説明できると仮定して,Landau自由エネルギーで記述できるという強い仮定の下,指数の具体的な値まで定量的に予想している.
この仮説を検証する実験として『ロミオとジュリエット』をはじめとする著名な文学作品3編の内容について複数の被験者に聞き取りテストを行った.
被験者は各作品から抽出されたいくつかのフレーズに対し,1~10点のスコア付を求められる:このスコアは被験者が読み取った感情の強さを表す.
得られた結果を良い感じに規格化すると,3作品の中の感情の高まりの時間変化のようすがLandauモデルの"理論線"にしっかり乗る,ということから上記仮説がサポートされると主張したいようである.
一目惚れしたときの電撃に打たれたような強い感情の高まりは時刻ゼロでの微分値が発散していることに対応しているとの考察もなされている.
ほほ〜という感じ.
さらに外場を導入した際のクロスオーバー的な振る舞いが『友人・知人のような関係からの恋愛感情への発展』を記述するのではないかとの仮説も打ち出し,これも自伝的文学作品や個人の日記の記録を下にある程度定量的にLandau理論で説明している.
この他,『恋は盲目』,『愛情と憎しみは紙一重』のようなよくあるフレーズも定性的に説明可能としている.
細かい議論をし始めるとツッコミどころは満載なのかもしれないが掴みどころのないテーマを対象に実験をデザインして定量的な議論を試みた点は素晴らしいと思う.
どこの雑誌に掲載されるのだろう?
ホットドッグはサンドイッチなのか?
2つ目の論文は『食の分類』を統計力学・熱力学的に扱おうというユニークな論文.
特に上記ヘッドラインの問が定期的にSNSなどで持ち上がる論争の種らしい:どういう学問分野でかなどはこの論文からは読み取れなかったが,いろんな食べ物(食材ではなく料理)をなんらかの形で分類しようという試みは色々存在するらしい.
その中でアメリカの食文化発信でSoup-Salad-SandwichのTriple Sという『指標』で分類しようと言う試みが存在するそうな.
本論文ではそのTriple S指標に基づく分類法のうち,統計力学・熱力学とのアナロジーに立脚した従来の考え方の問題点を指摘し,改良した相図を提案している.
従来は相状態として扱うべきTriple Sを状態変数として扱ってしまっていたのが問題ということらしい.
細かい内容についての記述は色々粗く(液体とガラスの相境界は一次転移らしい!)諸々の定義も書かれていないし,定義が読み取れそうな文献の引用もついておらず読み物的な論文だった(数式はゼロ)のでこの主張がどの程度正しいのかは正直よくわからなかった.
しかし個人的には試みがすごく面白く読んでいてワクワクさせられたし,Twitterのscreenshotが貼ってあったり文面も特徴的で自由な雰囲気が心地よかった(どこかに投稿しているのだろうか?).
著者らが繰り返し強調していたメインクレームは『ホットドッグはサンドイッチだ』ということだった.
また,Soup-Salad-Sandwichの三重点に相当する料理はアイスクリームサンデーらしい(お皿にアイスなどが乗っているものじゃなくて,ワッフルコーンなどに乗っていることが重要).
ちなみにこの論文で扱われたTriple S分類では寿司もおにぎりもサンドイッチ.
アメリカ人は『にぎり』と『寿司ロール』を明確に区別しているのが面白かった.
どうでもいいけど僕自身はカリフォルニアロールを初めて見たときはあまりの珍妙な見た目に寒気がしたのを記憶しているが,スシローのエビフライアボカドロールを食べてから寿司ロール肯定派になった.
あと,スシローは麺類が美味い.
次なる一手は?
ここで取り上げた2報の論文は奇しくも人間の3大欲求のうち2つに遠からず関連した題材であった.
となると次なる一手として期待されるのは睡眠は一次転移か二次転移か?という話だろうか(もしくはそれ以外?).
例えば入眠プロセス,REM睡眠-NonREM睡眠転移など?
(探せばすでにありそうかも)