【A】8/24登場分(3報)

[2208.11037] Many-body correlations are non-negligible in both fragile and strong glassformers

モード結合理論(MCT)に多点相関の効果も頑張って取り込んだら記述性能めっちゃ上がったしやっぱり多点相関の効果めっちゃ大事っぽいな?という論文.

 

MCTは動的転移を記述する理論.

動的転移とはつまり非エルゴード転移のこと:熱力学的には異常が見られないのだが,複数の準安定状態間が生まれてその間を行き来することができなくなるからダイナミクスを追いかけようとするとエルゴード性が失われているよ,という転移.

MCTと同時に熱力学的な転移とみなせるレプリカ対称性の破れ(RSB)も同時に観察される系では通常,MCT転移点はRSB転移点より高くなる.

(この辺の話はたとえばこの論文でp-spin spherical modelという模型を用いてわかりやすく説明されている:ちなみにこの模型では1-step RSBのみ起こる)

 

さらに数値計算との対応を見ると,MCTで予言される転移温度でも特に同力学的な転移は観察されないというのが一般的な話になっていた.

つまり従来のMCTはガラス転移点(のようなもの)をやたらと高く見積もってしまう傾向があった.

 

従来のMCTでは静的な2点相関関数のみをinputにして2点相関関数の時間発展を予言する理論を頑張って組み上げていたが,この論文で扱う一般化MCTでは動的な多点相関の効果や静的な三体相関の効果を取り入れる.

結果としては3体相関を入れるとガラス転移がstabilizeされ(=より高温で起こるようになるという意味だと思う),動的多点相関を入れるとdestabilizeされる(=より低温で起こるようになる,つまりsimulation結果に近づく)とのこと.

この影響はfragile系(hard sphereを扱っている)でもstrong(SiO2)でも同じだったとのこと.

従来『静的な三体相関はstrong系にとって大事で動的な多点相関はfragile系に大事』みたいな話があったけどfragilityに関係なくいずれも大事です,という話.

 

MCTの歴史全然知らないマンではありますが,これはかなり大きな進展ではないかと思いました.

図2とかを見ると「おぉ〜」という感じですね.

 

[2208.11102] Realisation of the Brazil-nut effect in charged colloids without external driving

荷電コロイド系でブラジルナッツ現象を外場なしで起こさせるという論文?

ブラジルナッツ効果はご存知,色んなサイズの粒子を混ぜた系を重力下でゆさゆさ揺すってたら大きい粒子が上の方にポコポコ浮いてくるという面白現象.

具体的には電荷による長距離斥力がはたらくような2成分混合コロイド系ではBrownian motionだけでブラジルナッツ効果が起こるらしい.

彼らの理論によると重たい方の粒子の電荷あたり質量が軽い粒子のそれよりも小さいときにブラジルナッツ効果が起こるらしい.

さらに密度が高くなってくると長時間metastable stateにtrapさえてブラジルナッツできなくなるらしい.

つまりガラスっぽいということか.

 

ちなみにブラジルナッツというのがナッツ界では最大クラスに大きいらしく,長さ3.5cm,幅1.5cmほどになるらしい(参照:小島家さんHP).

これはアーモンドの約2倍ということらしいが,どう2倍かがよくわからないので意外と想像しにくい.

そんな巨大なブラジルナッツが器上部を占拠するインパクトからこういう名前になったのだとか.

ちなみにgoogleでブラジルナッツの大きさを調べようと思って「ブラジルナッツ 」と検索窓に入れたら「ブラジルナッツ まずい」がsuggest最上位に来た.

物理学者に人気のこいつも意外に苦労してるんだなぁと感じた.

お店見かけたら買って応援してみよう.

 

[2208.11089] Impact of a rigid sphere onto an elastic membrane

理論と実験でタイトルのようなことを調べたらしい.

特に,1回のboundの間に複数回衝突する現象が見つかったらしい.

いや,2回boundしてるってことやん!と突っ込みたくなるかもしれないが,ドラムでいうダブルストロークのように1回目と2回目の衝突の間はほとんど浮き上がらないで,2回目の衝突の後はしっかり浮き上がってくるということらしい.