【A】10/11&12登場分(1+2報)

 

[2210.04775] Two-step devitrification of ultrastable glasses

Ultrastable glassで観察されるDevitrificationという現象についての論文.

Wikiとかで調べるとGlassの結晶化のようなことが書いてある(日本語では失透というらしい)が,この論文では単純にvitrificationの反対語程度の意味で使っているらしく,脱ガラス化的な意味になりそう?

具体的にはガラスの一部が液体的に振る舞うようになる現象を観察しているらしい.

 

プロトコルとしては,まずSwap Monte Carloを使って数値実験的ガラス転移温度(詳細はこの論文には書いていないけどMDで計算できないくらいの緩和時間になる温度という認識で問題ないと思う)の半分程度の温度までしっかりannealする.

ここまではNVTアンサンブルで計算する.

次いで,上記annealingで得られた配置を用いてNPTアンサンブル計算を行う.

このとき,圧力はSwap MC過程の終状態と同じ値で固定し,温度は瞬時にガラス転移点以上の高温にジャンプさせる(以下このjump後の温度をアニール温度と呼ぶ).

すると初期過程として構造緩和を伴わない単純なexpansion(低密度化)が観察されたのちアニール温度におけるガラス状態が得られる.

その後しばらくの間はガラス状態が維持されるが,あるタイムスケールで急に再度密度の減少が観察され液体になる.

 

この液体化現象はこの論文ではultrastable glass中で観察されており,核生成的に進行する.

そのため,液状化核が生成した段階では周囲のガラスに拘束された状態にあり局所的に高圧状態になる(液状化した部分は局所的な温度が高まるが周囲のガラスは容易に構造緩和しないため).

この影響で液状化に要する時間は異常に長くなる.

どのくらいかというとα緩和時間より数桁遅い(ボンド破断と比較しても桁を違えて長い).

話としては面白いし,色んなプロトコルで解析を行い何が起こっているかについてしっかり理解が進展するよう工夫がなされていて流石だなという印象だったが,一方で非平衡性の強い独特のsetupなので他の話題とどのように結びつくのかが難しいなと感じた.

 

高温から急速にクエンチした際,降温後の相点がスピノーダル分解を起こすような点で,さらにスピノーダル分解した先の高密度相がガラス相にある場合,相分離が異常に遅くなる現象が知られている(この論文の図3の議論:図の番号はarxiv版のものなのでjournal版は違う可能性あり).

この話に少し似ている印象を受けた.

昇温時の振る舞いを見ている点と,行った先が核生成領域というのが少し違うところか.

 

内容は面白いが可視化の図のcolor paletteは絶対に変えた方が良い.

目がチカチカして視線が奪われ非常に疲れるので3ページ目以降を読む際は可視化の部分を手で隠さないといけないレベルだった.

 

 

[2210.05263] Classical Nucleation Theory for Active Fluid Phase Separation

Active系における相分離を対象に古典核生成理論を考えてみた話.

Active系では自由エネルギーが定義できないので平衡系での古典核生成理論のように核生成イベントを自由エネルギー地形に結びつけた議論が展開できないのが困った点だった.

この論文ではdynamics依存の擬ポテンシャルを解析的に計算することに成功し,古典核生成理論が仮定しているような低ノイズ・過飽和極限でのactive気液分離(MIPSのことだと思う)の記述に成功したという話らしい.

理論の出発点にしているのはActive model B+というモデル.

このモデルはmodel Bのfluxに変な非線形項が入っているという式になっている.

これはactiveness由来のミクロな時間反転対称性の破れによって許される部分らしい.

具体的には(\Delta\phi)\nabla\phiという項になっている.

これがfluxに入っているため運動方程式としてはさらにナブラが一つ作用する.

直感的にどう解釈したらいいのかのお気持ちがパッとはわからない...

 

詳細釣り合いはもちろんmicroscopicにはactivenessの影響で破れているがinstanton trajectoryに沿って復元されるという性質もあるらしい.

面白い.

 

[2210.04983] Inverse thermodynamic uncertainty relations: general upper bounds on the fluctuations of trajectory observables

Thermodynamic uncertainty relationsがゆらぎの下限を決めるというのなら上限を決めるInverse thermodynamic uncertainty relationsを提案するぜという論文.

こういう関係が一般に存在することを示したらしい.