【A】11/28登場分(2報)

 

40日以上更新が空いてしまった.

その間ももちろん面白い論文が大量にあったが本当に大量なのでいったんおいておくことにした.

そこから特に選抜してまとめておきたい気持ちはある.

 

 

 

[2211.13511] Kauzmann Paradox: a crossover due to diminishing local excitations?

タイトルの通りいわゆるKauzmann paradoxについて調べるために著者ら自身が以前考案した格子ガラス模型を更に一般化して有限次元での非平均場的な可解模型を作ったよ,という話.

Kauzmann paradoxとは観測可能な領域における系のエントロピーの温度依存性を低温まで外挿していくと,過冷却液体と結晶相のエントロピーが有限温度で一致してしまうように見えるという事実を指してなんだかおかしいね,と指摘する用語.

結晶に比べると液体は許される構造自由度が多いはずなのでこれは不思議な感じがするぞ,という話だが,実際には厳密に一致するわけではなくてエントロピーの粒子数依存性がsubexponentialになるので(N無限大極限でexp関数に比べて無視できてしまうということ)熱力学的に寄与しなくなるということなのでparadoxとまではいえない気がする.

実際レプリカ理論的にはレプリカ対称性が破れる転移点でこういうことが起きている(参考文献 の5章など).

 

それはさておき,このarXiv論文ではこういうparadoxは有限次元系でも本当に起こるのか?ということに興味を持っている.

ごく低温の性質をMDを計算などで直接曖昧さなく議論するのは困難を極めるので格子模型を作ってみようというスタンスをとっている(MD計算を用いて同様の問題に取り組んだ例として,この文献などがある:このarXIv論文中でも関連が議論されており,ある意味consistentになっているらしいので興味深い).

モデルの詳細によって数値計算結果は(数値的に到達可能な範囲では)いろいろな結果が得られていてなんとも言えない感じだが,可解になるVector variantではごく低温で配置エントロピーがクニャッと曲がってKauzmann paradoxを回避しているようすが示されている:数値計算,理論双方の結果が高精度で一致している.

 

この論文自体の主張は非常に興味深いが,このモデルと構造ガラスの関係については正直よくわからなかった.

特に,glass的な性質が一通り観察されることを確認したという話だったが,著者自身も指摘しているとおり振動が存在しないので中間散乱関数の緩和過程が二段階になっていないなど少し不思議なところもある.

Glassの大事な性質して注目されている局在振動モードに対応する物理量はなにかあるのか,とか動的不均一性に対応したものは見えるのかなどが気になる.

とはいえこういう話題について調べるときの重要なreference theoryになりそうな気がする.

 

 

 

 

[2211.14187] Quaking in sand ...

粉体の動力学を考えるときの摩擦の扱い,雑すぎひんか?という論文.

クーロン摩擦みたいな単純な数理模型を考えて数値計算を行ってみると種々の量に摩擦係数依存性があるという研究は多くあるようなので,言われてみるとたしかにという感じ.

クーロン摩擦は摩擦の模型の中では単純かもしれないが,これだけでも理論的に扱おうとするとめっちゃややこしいし,数値計算も大変やし,という気持ちだったがもっとややこしくせよの圧がかかり始めるのか...?

 

この研究では三次元系で摩擦ありHertzian粒子をギュウギュウに詰めた系を考える.

粒子は2枚の板で上下に挟まれギュウギュウにおされており,これらの板がslideすることで系にせん断外場が印加される.

このとき,粒子間に働く接線方向の摩擦力は各コンタクト毎に異なる摩擦係数を持つというのがこの研究の特色.

さらに,この摩擦係数は詳細なダイナミクスに依存して変化するらしい.

(たぶん滑り方向の相対運動の加速度?具体的な定義式はSuppleにあるようだがSuppleがくっついていないのでわからない)

この摩擦係数のダイナミクス依存性はvelocity weakeningを表しているというようなことが書いているので,滑りが生じると摩擦係数が小さくなるような効果が入っているのだと思う.

 

色々従来の単純なクーロン摩擦とは異なる結果になるらしい.