【A】9/3登場分(3報)

[2209.00572] Dissipation indicates memory formation in driven disordered systems

アモルファス固体は本質的に非平衡系で,非平衡系ということは過去の履歴に物性が依存するだろという話が前提にあって,そういう履歴の効果を実験的に調べる方法を提案しましたよという話.

もちろん一般に任意の履歴を調べる方法などないので,かなり問題を限定している:一定の振動せん断ひずみを印加し吸収状態転移を示した状態を出発点にしている.

この研究では吸収状態に入ったあとにさらに様々な振幅で振動外場を印加した際の系の応答を観察する.

この場合,吸収状態に転移させた際の振動外場(以下トレーニング外場と呼ぶ)の振幅が過去に経験した最大の摂動に相当するようになる.

その後のprobing外場の振幅がトレーニング外場の振幅未満のときは粒子変位は閉軌道のままだが,振幅がトレーニング外場以上になると不可逆な構造変化を示す.

この不可逆な構造変化に伴ってマクロには応力の不連続な変化やacoustic emissionが観察されるし,サイクルごとに応力応答のようすが変化するので,その辺りの異常性が検出される臨界値として履歴効果を定量評価可能という話.

 

先行研究で知られた知見に対して本質的な差分を見出し理解を飛躍的に進めた,という話とうよりは既知のものを組み合わせてしっかり実験的に検証し,プロトコルを提案できましたという話だと思う.

特にreference dataであるミクロな構造の情報が取れる場合・取れない場合の両方で実験しているのが面白かった.

 

[2209.00350] Active microrheology of colloidal suspensions of hard cuboids

Active microrheologyをMonte Carlo simulationで検討してみる話だが,なんと板状(あるいは角柱状)粒子浴の中にprobe粒子を入れて外力で牽引した際の応答を調べている.

具体的には有効摩擦係数を測定し,定量的な評価指標としている.

浴粒子の形状をcontrolするパラメータを一つ導入した際,そのパラメータ依存性が非単調になるという報告になっている(濃度依存性も調べている).

え!?というセットアップだが,実際に実験を行う際にはbath粒子が非球形であることのほうが一般的であることを考えると大事な知見といえる.

著者らも言及しているとおりlocalな秩序形成などが効いてくるのかもしれないし,慣性モーメント的なものがシンプルに効いてくるのかもしれないし,回転自由度と形状のcouplingを介して相関長が伸びたりする効果があるのかもしれない.

(外場なしの状況では検討を行った範囲ではglobalな方向秩序は形成されない条件で計算しているらしい)

 

このように系が複雑化した際の影響を個別各論的でなくsystematicにincludeした理論を構築することはいつか可能になるのだろうか?

 

 

[2209.00527] Geometric thermodynamics for the Fokker-Planck equation: Stochastic thermodynamic links between information geometry and optimal transport

Abstractの一文目がめちゃくちゃかっこいい.

Geometric thermodynamics(日本語でいうと幾何学的熱力学?)を提案するで,と明言されている.

ここ数年著者が発表してきた情報幾何学的観点での非平衡熱力学の解釈が体系だってきたからしっかり一分野として確立させていこうという感じのShort review論文的な位置づけと思われる.

これはとても嬉しい.

主題になっている5章の内容は先日の同じ著者の論文で見かけてから気になっているのでこの論文でしっかり勉強させていただきたい所存.