bioRxivから:分身の術を利用した細胞集団のmechanosensitivity測定

Two-point optical manipulation reveals mechanosensitive remodeling of cell-cell contacts in vivo | bioRxiv

 

今回はbioRrxivからの論文の紹介.

細胞集団が形態形成などを行う際には細胞間の接合状況が適宜切り替わっていく.

この過程を理解するために力学的な刺激に対する応答を見てみようよ,というのがこの論文のmainのmotivtionだと思う.

タイトルのmechanosensitiveという単語は細胞が力学的刺激に対してactiveに(単純な物理的な作用のみでなく生化学的な反応等を利用して,という意味)応答する性質のことを指しているのだと思う.

新しい実験技術で今まで測定できなかったものを測定できるようにして,得られた知見を用いて数理模型にrefineまで行っている.

 

この論文ではいわゆる光ピンセット(optical tweezer:OT)を使って実際に細胞のいろんな部分を引っ張っているが,従来の実験と異なり,同時に二箇所を引っ張る点が新しい.

従来の一点のみを引っ張る実験では張力やレオロジー測定などの物性測定はできたが,2つの細胞が接着している共有辺(cell junction:CJと呼ぶ)が変化する様子というのが観察されなかったらしい.

CJ上の2点に直接力を加えたらCJの変化が起こせるんじゃないか?という仮説に基づいてこの新手法を開発したっぽい(2点の選び方のgeometryは色々検討されている).

ちなみに同時に2点引っ張る,とだけ聞くと簡単そうに聞こえるがしっかり色々制御したレーザーを小さい試料(射出位置制御はサブミクロンorderの精度が必要?)に打ち込むのでかなり大変な作業になるのだと思う.

この論文ではたぶん超高速で交互に二箇所にOTレーザーを打ち込むことで同時に二箇所引っ張ることを可能にしている?

多くの人が子供の頃に夢見たであろう「高速移動で分身の術」みたいなことを実現する力技になっているようで面白い.

この実験によって目論見通り外場の印加によってCJの長さなどが変化するようすが観察されたといのが実験的なmein result.

ちなみに実験はin vivo

 

ここまででも大変意義深いと思うが,この論文ではさらに上記実験で観察された結果を再現可能な数理模型の探索も行っている.

ベースにしたのはVertex modelと呼ばれる,細胞シートの数理模型として著名なもの.

これは細胞集団をvertexとedgeで表現したモデルで,各vertexの運動方程式が系の幾何学的情報と結び付けられている.

 

CJのactiveなremodelingの効果をvertex modelに陽に取り込むことで実験結果を再現できるように数理模型の拡張を行っている.

モデリングにあたってちゃんとミオシン-IIの作用など,ミクロな洞察も動員した根拠付もなされていた.

今後,提案された模型でしか再現できない自発的な現象が見つかるとめちゃくちゃ熱いなぁと言う印象だが,そのためには細かな情報を解像できる実験技術の開発が必要なのかも?