【A】7/15登場分(2報)
[2207.06970] Spin glass systems as collective active inference
Active inferenceというのはKarl Fristonの自由エネルギー原理(FEP)の文脈で語られる概念だと認識している.
FEPは人間の脳が外界の情報を学習したりするのはベイズ推定の枠組みで(変分)自由エネルギー最小化を図っているという理解ができるよという解釈論だと認識している(この枠組で最大化したい周辺尤度は自由エネルギーにマイナスをつけたものと似たような数理構造を持つ).
特に,自由エネルギーを減らすために能動的に情報を取りに行ったりすることもできるよね,というのがActive inferenceだと思っている(変分自由エネルギーを構成する項の一つであるシャノンサプライズを減らすことに相当:そうなるように視線を動かすなどの身体操作をする).
この解釈論では脳の本当に様々な働きが統一的に理解できるということで最近流行っている.
特に,ただの解釈論にとどまらずドーパミンの作用についての仮設を与えるなど医学的な貢献もあったということで人気に拍車がかかったのかもしれない.
この論文ではそういうActive inferenceとspin glassが結び付けられなくはないという話を展開している.
Spin glassと連想記憶とか学習理論は同じ教科書に載っているくらいなので,似た概念のActive inferenceも結び付けられるのかもね〜という感じだが,FEPの文脈ではなにかもっと強いmotivationがあるのかもしれない?
(ありそうなことは書いている)
アモルファス固体の諸性質を理解する上では基準振動解析で得られる振動物性がいろんな場面で有用になることがここ最近(20年とか?)の研究でわかってきている.
例えば外場に対する力学応答が基準振動モードで書き下せるということがわかっている.
逆にいうとこうした解析的表現の基礎があったのでここ最近の理解の進展につながったのかもしれない(わい自身の最近の研究成果なんかは割とそう).
しかし上の「わかっている」のリンクで紹介している2006年の論文では対象は単純な分子で構成されたような比較的扱いやすいに限られていた.
つまり,粒子間に摩擦が存在するような粉体系は上記論文で報告された理論では扱えなかった.
ここで紹介したarxiv論文は上記の「わかっている」論文の内容を摩擦系に拡張している.
摩擦系に拡張すると散逸の効果や回転自由度が現れてくるためかなり話がややこしくなるが,理論の自然な拡張がなされているように思う.
ガラス(構成要素がミクロで色々ある意味扱いが単純になることがままある)を対象に振動モードに立脚して培われた理解を摩擦のある粉体系などにexportしようというときなどに大事な足場になりそう.