【A】6/7登場分(2報)

[2206.02683] Mapping out the glassy landscape of a mesoscopic elastoplastic model

Elastoplastic modelで振動せん断下のガラスの塑性変形について考えてみましたという論文.

振動せん断下で振幅が小さいときは複数のサイクルの後reversibleな閉軌道に至るが,振幅が大きくなるにつれて閉軌道にたどり着くまでに必要なサイクル数が増え,ある臨界値以上では閉軌道が見つからなくなるという転移現象が記述できる.

それ自体はよくあるけど,特徴的な点は以下の2点.

  1. Annealingの深さの効果を取り入れいている
    このprotocolはかなり面白い.
    提案protocolが実際にannealingに対応していることを確認するため,振動だけでなく定常せん断下での降伏現象も観察し,実際にbrittle→ductileと変化することを示している. 
    1. まずは温度無限大と温度ほぼゼロの2つの極端な状況を考える.
      温度無限大の状況ではエネルギーバリアの大きさは無視できるので系内の任意のサイトがランダムにlocal yieldingを経験することになる.
    2. 温度度無限大のプロトコルで何度か適当にyieldさせていくとそのうち系が定常状態に達する(localな応力の平均値が一定になる).これは温度無限大からゼロ温度へのクエンチに対応する.
    3. 一方,温度がほぼゼロの場合には一番壊れやすい部分(local stability=local yielding stressからのズレが一番小さい部分)のみが壊れることができる.
    4. 温度無限大から生成したクエンチサンプルで,3の操作で最も壊れやすい箇所からlocal yieldingを起こしてやることがagingに対応するという提案
  2. Transition graph(t-graph)なるものを考えている
    Athermal quasistatic (AQS)せん断下での塑性変形を介しての系の動的発展のようすをグラフで表現したもので,このt-graphにdisorder landscape(エネルギー地形のこと?)の情報が埋め込まれるらしい.
    基本的には塑性変形で状態間遷移が起こった際に各状態をnodeにした有向グラフを作成するだけ.
    t-graphから読み取れる情報の詳細は追いきれていないけどこのグラフのtopologyの観点で配置の性質を特徴づけられるというのはかなり興味深い.

 

気になった点:モデルの詳細をDepinning-likeと強調しているが,それがinteraction kernelがmonotonicということなのかどうかは本文の記述やデータからは判断できなかった.

 

 

[2206.02279] Assembly Theory Explains and Quantifies the Emergence of Selection and Evolution

Assembly theoryという物事の複雑性を扱う理論がつい去年あたり提案されたらしい(wikipediaこちら).

複雑性の指標ということでKolmogorov complexityにかなり似た定義になっていそうやけど,Wikipediaによるとこの理論を分子の複雑性に適用した論文(Nature Communicatioins内の化学・物質科学分野で2021年のtop25論文に選出されていた:何においてtop25かは不明)では,この理論が他の複雑性指標と比べて優れている点として実験的検証可能性を挙げているらしい.

 

このarxiv論文では色々あってこのAssembly theoryによって自然淘汰や進化という不思議な現象がいかに創発するかが定量的に扱えるらしい.

理論自体も取り組もうとした題材も両方,とても興味深い.