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[2209.09579] Microscopic observation of two-level systems in a metallic glass model
超低温までしっかり"平衡化"しながらannealしたガラスの性質が,主にフランスの研究グループによってここ5年ほど精力的に調べられてきた.
特に以下で述べる特殊な数値計算手法を用いて従来の分子動力学計算やMonte Carlo法では実現不可能だった超低温(モード結合理論が予言する転移点より下)でのガラス物性が色々調べられるようになって,無限次元で構成された平均場レプリカ理論のどういう部分が有限次元でも生き残ってどういう部分が破綻するかといった観点での研究が白熱していた.
これらの研究を遂行するための主たる道具立てはSwap Monte Carlo法と呼ばれる特殊な数値計算法だったが,これがうまくworkする系を考案するのも難しく,これまでは緻密に作り込まれた特殊な多分散系(以下では『従来の模型』と呼ぶ)での計算例しか報告されていなかった.たぶん.
しかも引力のない相互作用(WCAとかsoft potentialとか)のみが対象だった.はず.
最近新たに引力部分も持つstandardなLennard-Jones potentialで相互作用する三成分混合系で上手くSwap Monte Carlo法が使えるものが見つかったらしい.
本論文では,従来の模型で獲得されてきた超低温状態についての知見が新たに見つかった三成分系でも成り立つことを示したというものかなと思う.多分.
もしかしたらちゃんと読んだら多少の差分はあるのかもしれないが,以下に述べる理由でそんなものはなくても良いと思う.
ちなみに例えば論文1,論文2,論文3の内容などがtraceされているように思う.
個人的にはこの研究の価値はただpotentialを変えても上手くいったよ,ということを示しただけにはとどまらないと感じた.少し長くなるが理由を以下に述べる.
上でリンクづけした論文など,超低温状態のガラスについて近年獲得されてきた知見はいずれも『従来の模型』についてのみ観察されてきたものなので,それらをどの程度一般論として受け入れていいかは厳密にはなんともいえない状況が続いていた.
例えば「従来の模型が複雑すぎるからわかりにくいけど実はごく低温ではある種の結晶化が起きていて,それに伴う異常な振る舞いを見ているだけじゃないのか?」という指摘も存在したりしたようだ(Swap Monte Carloを適用可能な系が見つけにくい理由はここにあるらしい:適当に用意した系では簡単に結晶化してしまう).
(ちなみにこの点については著者らは頑張ってそんなことないという状況証拠を提示していたはず.)
今回の論文で質的に大きく異る系でも同じ性質が現れていることが示されたことで,ここ数年の進展をしっかり受け入れて良さそうな雰囲気がグッと強まったと思う.
そういう意味でこの論文の価値は非常に大きいと個人的に感じた.
(たぶんこういう認識で良いのだと思う.)
過冷却液体のα緩和についての実験論文.
よくある緩和時間によって定義されるkinetic fragilityの他に,g(r)の第3第4ピークの情報から構成されるstructural fragilityというものも測定されている.
kinetic fragilityは同じだがstretched exponent の値が異なる二種類の合金系を用意してきて,とstructural fragilityがよく相関しているということを示したのだと思う.
つまり,dynamic heterogeneityが構造によって決まるという主張になるのだと思う.
これは最近の数値計算系や機械学習系の論文と定性的には整合する結果だと思うし,非常に興味深い.
長さスケール依存のダイナミクスの解析も行っていて中距離秩序構造との関係についても議論しているようだ.
仕方ないのだが一部の線形フィッティングは思い切った感がある.
傾きが0という主張だからまぁいいのか.
[2209.09689] Stochastic equations and dynamics beyond mean-field theory
おなじみの本"Spin Glass Theory and Far Beyond - Replica Symmetry Breaking after 40 years"のchapterの一つ.
7ページしかなくて一番短いかもしれない.