【A】9/7登場分(8報)
9/5がアメリカの祝日(Labor Day)のためか,昨日はarXivの更新がなかった.
しかし,世界中の人達が同じように休むわけではないので今日は2日分まとめて出てくる形になっていたので結構な報数が上がっていた.
逆に一日あたりにアップロードされる論文の数はだいたい同程度になっているということなのだが,その点はすごく興味深い.
各カテゴリに出てくる論文の数の統計を取ってみると面白いかもしれない.
ちなみにMaterial ScienceはSoft matter,Statistical physicsやDisorder and neural net等と比べると毎日倍程度の25本くらい論文が出ている(ちなみに残りの3カテゴリはだいたい同じ程度で9~13本くらい).
そのまま研究者人口の数を反映していると思うと,materialっぽさがある論文はmaterialもsubカテゴリに追加して投稿しておくと,より多くの人に見てもらえるのではないかと思う.
一方で,今日のように祝日後ですごい数の論文がいっぺんに現れると,読み手側としては少しsurveyが雑になる傾向が出てきて見逃しも発生しやすくなる気がする.
そう思うとarXivに論文を投稿する際にはアメリカの祝日前後は避けた方が良いのかもしれない?
ガラス物理の解明はとても難しいので,理論や数値計算ではまずは主に問題をとことん簡単にしてただの丸っころをたくさん集めた際に観察されるガラス転移を調べるのが主流になっていた.
しかし,実験的には分子を扱うためただの丸っころではない.
そのためか,実験的には一般的な数値計算のセットアップでは再現できない特殊な緩和現象が観察されることが知られていた:これがタイトルにあるJohari-Goldstein 緩和(JGB緩和)である.
これは回転自由度に起因すると考えられていて,特に,証拠もなくなんとなくみんな回転自由度があるせいでエネルギー地形になんか階層性が現れるのだろうというフワッとした解釈が与えられていた(たぶん).
なぜずっとフワッとしていたかというと,これを直接数値計算で観察することが技術的に極めて難しく誰も手を出せていなかったからである.
大変な計算を行ってみないとJGB緩和が実際に観察されるかわからない問題もあって本当に大変だったようだ.
この論文では色んな手を尽くして頑張ってJGB緩和を示す系・条件にたどり着いたところがまずすごい.
さらに,観察できましたで終わりではなくて,みんながフワッと持っていた解釈が実際に正しいことを数値的に証明しているところがもっとすごい.
「数値的に証明するったって,どうやるんだ?」という話だが,そこはかなり手が混んでいて,『分子重心の緩和』『原子レベルでの結合の緩和』『分子レベルでの結合の緩和』の比較や『実ダイナミクス』『対応するinherent structure』など色んな観点で検証を行っている.
JGB緩和についてのミクロな描像を確立できたと言える成果ではないかと思う.
[2209.02342] Internal mechanical dissipation mechanisms in amorphous silicon
Two-level systemの話をする論文なのだが,abstractやintroductionでは熱い重力波検知器押しがなれていた.
ついでに量子コンピュータへの言及もなされていた.
量子コンピュータへの言及はたびたび見かけるけど重力波検知器の話は初めて見た気がする.
[2209.01271] Geometry-controlled phase transition in vibrated granular media
擬二次元(薄い実験系を鉛直に立てているのでシステムはxz平面内:zが鉛直方向)の粉体層の底面を加振した際の挙動を実験的に調べている.
容器の底面の形状を変化させたら結晶秩序が出やすかったり出にくかったりするという話.
セットアップは大きく異ってair-fluidized系だがこの論文に少し内容が似ている.
さらにもっと関係ないがAir-fluidized粉体粒子が熱的なゆらぎを示すというこの論文の結果は自分で再現してみないことには心の底から信じることはできないなぁと思う(疑っているわけではないけど).
実験してみたい.
[2209.02301] The Influence of Particle Softness on Active Glassy Dynamics
Active glass系でActivenessの強さを変化させながら緩和時間を測定すると両者の間には非一様な関係が観察されることが知られていた.
しかし,この知見は粒子間相互作用がquasi-hard sphere系のときに限られていたので,近距離での極端なpotential形状の影響が大きいのかactivenessのintrinsicな性質かは判然としなかった.
柔らかいpotetialにして似た検討をしみてこの点を明らかにしたいよ,というはっきりした論点出発の論文.
quasi-hard sphere系での検討ではActivenessが持つpersistence lengthがcage sizeと一致したときにrelaxationが最もenhanceされることが知られていたが,この辺の知見も含めて柔らかいpotentialでも定性的な違いは見られなかったらしい.
粉体実験でsofteningを観察する話だと思う.
[2209.02592] Quasicriticality explains variability of human neural dynamics across life span
脳みそはcriticalityを利用している,というような話が愛は二次転移論文でも言及されていたが,ホンマにcriticalというよりsusceptibilityが最大になるparameter領域にあるよ,というquasicriticalityという考え方があるらしい.
この論文ではそういう考え方に則ってデータを解析してみたら,実際実測データがほぼほぼscaling lineに乗ったよ,という話.
scaling lineというのはneuronal avalancheのsizeとdurationが示す臨界指数の関係を示す直線のこと.
Neuronal avalancheというのはあるニューロンが発火したときに次々に関連ニューロンが発火してavalanche的に一定の塊が発火する現象のことだと理解している.
大きなデータベース上の色んな人のデータを解析してみたら,だいたいどのデータも一つの直線の周りに分布するように見えるが,年齢と性別に依存して直線上のどのあたりに分布するかの傾向が現れたとのこと.
[2209.02292] Emergence of universal scaling in weather extreme events
異常気象が問題になってきている昨今,今後どの程度異常気象の発生が期待されてしまうのかはみんなが気にしているところ.
この論文では温度(特にday-to-day air temperature difference)の統計を具に調べてなにかuniversalっぽい振る舞いが見えているということを報告している.
extreme events(測定対象を大きい順に並べた時の上位1%のもの,とかいう定義:具体的に上位何%とするかの値は色々検討している)の大きさの分布はGumble分布,extreme events間の時間はGamma分布に従うらしい.
有限サイズ効果を調べると(たぶん全地球上のデータをsubsetに分割している?)scalingがrobustっぽいという結果になっているらしい.
興味深いけどにわかには信じがたい(いい意味で).
[2209.01476] Learning the Dynamics of Particle-based Systems with Lagrangian Graph Neural Networks
粒子軌道から支配方程式を読み解く系の新しい手法の提案論文ぽい.
従来は難しかった(?)dragがある状況などでも上手くいくよ,というのが売りか?