【A】3/16登場分(4報)
[2303.08276] Emergent modes of collective cell organization in an Active Finite Voronoi model
最近Finite Voronoi modelというものが提案されていたらしいが,それにActivenessも入れたよ,という論文.
名前的にめっちゃVertex model感あるやん!と感じたが,筆者にはそれはお見通しだったらしく,Vertex modelとの比較がIntroにあった.
Vertex modelは必ず3つの細胞がきゅっと集まって一つのvertexを共有しないといけないが,このFinite Voronoi modelではそんなことはないよ,ということらしい.
これによってnonconfluentな状況の記述能力も獲得でき,Voidがある細胞集団の数値計算が可能になるらしい.
このnonconfluentな状況の記述能力はよく聞くthe epithelial-to-mesenchymal transition(日本語では上皮間葉転換というらしい)をしっかり理解するために重要らしく,生物物理的な意義が大きそう?
くるくる回転するSpinnerタイプのアクティブマター(歯車的なやつ)の論文.
自己駆動する歯車をたくさん作って実験をしているみたい.
それぞれは自転するだけのはずやのに密度を振ったりすると全体が大きなvortexを形成したりする集団運動パターンが見られたという報告だと思う.
[2303.08166] Machine learning topological defects in confluent tissues
細胞集団中に存在する構造欠陥をちゃんと測定するのは大事だけど従来のelongated particle向けの開発された検出手法じゃいまいち検出しきれてなかった感じがしたそうな.
そこで畳み込みニューラルネットワークで検出できるようにしたよ,という論文だと思う.
[2303.08797] Stochastic Interpolants: A Unifying Framework for Flows and Diffusions
比較的新しめ(だと思っている)の生成モデルであるFlowとDiffusion modelをあわせたような手法があるらしい.
【A】3/15登場分(4+3報)
過冷却液体の結晶化ダイナミクスは古典核生成理論で説明できるやろ!という風潮に疑義を投げかける論文.
古典核生成理論によると,過冷却液体の温度が低くなりガラス転移点に近づいてくるとα緩和時間よりも長い時間をかけて結晶化が起こるということを予言する.
つまり,核生成時間がいわゆるsuper-Arrhenius的な温度依存性を示すことが期待される.
この論文ではこの点を検証してみると全然そんなことはなくArrhenius的に時間が増大していくことが示されている.
興味深いことに結晶化が簡単に起こる単分散系(粒径がすべて同一の粒子で構成された系)とほぼ同じようなセットアップやけど粒子径に分布が存在する系のダイナミクスの比較を行っている.
この2つの系は全然違うやんけ,という気もするが実はそいつらのα緩和時間は同一の曲線に乗っており,結晶化しちゃってα緩和時間が測定できなくなる温度が異なるという結果も示されている.
こいつらの結果を比較して
1:結晶化が起きない系では高温で活性化エネルギーが1程度,低温で6.5程度になる
2: 結晶化が起きる系では結晶化傾向が観察されるブランチで活性化エネルギーが0.16程度になる
ことが示されている.つまり結晶化が進行する際のエネルギー障壁は高温での液体のダイナミクス(が仮に活性化過程だと思って測定したとき)の活性化エネルギーよりも一桁程度も小さいということがわかる.
この不思議な傾向をよく理解するために多分散系(粒径分布がある系)・単分散系双方んちういて構造緩和過程を詳細に解析している.
特に,結晶化がα緩和時間より桁違いに早く進行することから結晶化がいわゆる過冷却液体の"平衡"ダイナミクスには支配されておらずaging過程で進行しているのだろうということがわかるので,過冷却液体のaging過程の構造緩和と結晶化過程の比較を行っている.
より具体的には,aging過程(過冷却液体が時間並進対称性を復元する前の状態:たぶん冷却直後の配置を初期状態にしての数値計算結果を用いている)を対象にOverlap関数(密度相関のようなもの)を測定している.
この関数の減衰のようすを初期過程・後期過程に分離して緩和時間の見積もりを行うことで結晶化系特有の結晶化と緩和のシナジー効果のようなものが起こっていることを明らかにしている.
[2303.07870] Nature of Subdiffusion Crossover in Molecular Glass-Formers
過冷却液体中の構成要素の自己拡散現象は観察対象とする時間/長さスケールに依存して色んな振る舞いを見せる.
例えばコロイド分散系では非Fick的な拡散からFick的な拡散に変化するがFick的になったあとも非Gauss的ではあり続けるという報告がある(これはちょっと前に色々盛り上がっていたが...).
一方,分子ガラスやポリマーガラスの場合は非GaussからGauss的に変化するが依然として非Fick的なsubdiffusiveな振る舞いを続けたりするらしい.
この論文では非Gauss的fractional Brownian motionのFokker-Planck方程式を立てて後者の現象を再現することに成功したらしい.
非Gauss領域でvan Hove関数に見られる特徴的なexponential tailも説明できたらしい.
この結果を肯定的に受け止めると,今後はfractional Brownianが何を反映しているか,という論点に変わる感じか?
非常に面白い内容だったがアルファベット数文字の略語が多すぎてパニックだった.
原稿を人に読んでもらったときにこの点を指摘されることがたまにあったが,気持ちがよくわかった.
以後気をつけたい.
構造の立脚してthixotropic non-linear elasto-viscoplastic constitutive modelを提案した論文ぽい.
Oldroydのモデルはyield前の状態に対して準静的な変形という理想的な仮定が置かれており降伏前の細かな塑性変形や散逸の効果が無視されていたがそこを少し一般化したらしい.
Plastic strainを変数として陽にincludeした式1を出発点にしたところがポイントか?
OldroydといえばOldroyd-B modelしか知らなかったが,それとは違うモデルの話のようだ(Oldroydのオリジナルの式は出てこないがたぶん違う).
最終的に複雑といえば複雑だが最終的に4章のケーススタディで出てくる式もそこそこ綺麗な式になっている.
色んな非自明な振る舞いを実験結果と網羅的に比較していて,割とよく合っている.
こういう複雑な系の話はあまりちゃんと知らなかったがめっちゃ面白いのではないか?
[2303.07731] Nature of the order parameter of glass
Nature of なんとか of glassというタイトルの論文がもう一報出ていた.
本質的に非平衡なガラスにおいてはそもそも状態量を定義するのが難しいけど時間平均として状態量を定義しましょうね,という話と,ガラスにおいては平衡位置というものが状態量でありかつ秩序変数だよという議論を展開しているらしい.
# Active matter系も色々出ていた
[2303.07746] Flocking without alignment interactions in attractive active Brownian particles
[2303.07843] Structure and diffusion of active-passive binary mixtures in a single-file
【A】3/14登場分(5報)
[2303.07147] Enhanced Vibrational Stability in Glass Droplets
ガラスの振動状態密度の低周波領域が示す非Debye的な冪則は近年,(無限次元の平均場レプリカ液体論等によって予言される)限界安定性の観点などから大きな注目を集めている(「振動」等のキーワードでブログ内検索してもらるとわかるがこのブログの中でも関連する記事が非常に多い).
2016年ころから始まって今にいたるまで様々な研究がなされ,様々なガラス系で普遍的に冪則を成していることは間違いなさそうと考えられているが,その具体的な指数の値については様々な観点で様々な論争が存在する.
今回そこに新たな一石が投じられる形となった.
この研究グループはこういう非Debye的冪則の話を議論する際にはガラスサンプルをどのように準備するかが非常に大事だという観点を提案している.
ガラスに限らず通常バルクを対象にしたMD数値計算を行う際には周期境界条件を設定する:これは熱力学極限では無視できるはずの表面の効果を殺してしまうことなどが主な目的である.
しかしこの研究グループはこの周期境界条件によってartifact的な残留応力が発生してしまい,得られたガラス配置は基本的にせん断ひずみに対して不安定な配置になっとるのよ,という考えている.
このグループが昨年発表したこの論文では実際にせん断に対して安定化させた配置とそういう操作をせずに作った(つまりそれまでの研究と同じようなプロトコル)配置とでは安定性が異なっており,それを反映して上記非Debye的な振る舞いが従う冪則の指数が変化することが示されている.
こういう論点から,今回の論文ではそもそも周期境界とかやめてopen boundaryで計算しようや,という考え方を提案している.
このopen boudnaryというのは色んな観点から確かに大事よね,という感じがする.
この論文ではopen boundaryでかつ『しっかりannealしながら配置を生成したら』冪指数の値が変化して,この論文でせん断に対し安定化させたときと整合的な結果になったよ,と報告している.
これまでの研究が測定していた指数は周期境界条件特有のartifactと言いたいのかもしれないが,周期境界でもしっかりannealしたらどうなるのかがすごく気になった(具に読んだら書いているかも?).
システムサイズ依存性も議論しており,このようなopen boundary特有の指数は大きいシステムで初めてしっかり見えてくるということも報告されている.
周期境界条件が表面の効果を無視できるように設定されていることを思うと,むしろ逆に大きい系で周期境界条件の状況に近づくんじゃないとおかしくない?と思うが,この論文の主張的には周期境界系のトーラス型のトポロジーが悪さしているという気持ちなのだろうか??
実際それがどっちなのかは非常に気になる.
もしトポロジーが悪さしているというならMD計算のあらゆる結果の再吟味が必要になったりするのかもしれない(MDで観測される拡散係数に計算領域の形状が影響してくるという話とも関係しているのかもしれない?)?
それはそれで面白いな.
Vertex modelの面白い性質をまた一つ見つけたという論文?
2つのcontextの話が前提になっている.
一つはCell Vertex modelでは各細胞が気持ち良いと感じる面積/周長比(二次元の話:三次元でも似たような話がありそうだが知らないです)の値に応じて固体/流体転移が起こるという話.
もう一つはその固体/流体転移点付近でcompression/dilationに対する線形弾性応答が非対称であるという話(これは知らなかった:論文はたぶんこれ?).
この論文ではまずこのcompression/dilationに対する非対称性が転移点から離れていても存在することを示しているっぽい.
具体的にはcompressionの下では固体的状態からの流動化が観察され,dilation下では逆に流動相が固化するらしい(直感的には逆な気がするな?).
ここから色々あって,細胞膜の自発曲率の効果を陽に考えると,それによって固体/流体転移点が変わるということを示したらしい.
現実系との対応を考える上では重要になりそうな知見.
[2303.07234] Multi-objective analysis of the Sand Hypoplasticity model calibration
Hypoplasticという概念があるらしい.
粘度の構成則に使われたりするらしい.
面白そう.
このレビュー?論文にざっくりしたモデル概要が載っていそう.
今回の論文ではこのモデルの適用可能性を徹底的に調査したっぽい?
特に遺伝的アルゴリズムを使ってパラメータ空間を広範囲に探索しているらしい.
[2303.06375] About the de Almeida-Thouless line in neural networks
相図上でレプリカ対称解が不安定になる線をAT線というが,レプリカ法を用いた徹底的な解析なしにAT線を引く手法を提案しているらしい?
しかも厳密らしい...?
Abstractを読むとレプリカ対称解周りで1-RSB的なschemeで自由エネルギーを展開すれば良いということだがこれでは何もわからんな...
Hopfield模型とHebbian相互作用するmulti-node系に適用した結果が報告されている.
後者に対してAT線を書いたのは初めてという理解で良いのだと思う.
これはニューラルネットワークの損失関数地形がRSB的な厄介な性質を持ち始める限界を見積もるための第一歩を与えたという理解で良いのか...?
このほかSK模型なやp-spin系などAT線がすでにわかっている系にも適用してconsistencyも確認しているらしい.
de AlmeidaとThoulessらのアプローチの一般化になっているらしい.
[2303.07010] Hydrodynamic finite-size scaling of the thermal conductivity in glasses
ガラスの熱伝導率を賢く計算するための手法を提案する論文か?
熱伝導率を計算したことがないので全然知らなかったが,熱伝導率の計算に必要な計算量は粒子数の3乗にスケールするから大変だったらしい.
流体力学的な議論の結果いい感じに計算負荷を軽減したということらしい.
所属の最後がItalyの後 European Unionまで書かれていて一体感を感じた.
【A】3/13登場分(5報)
[2303.05935] Quantum Stochastic Thermodynamics: a Semiclassical Theory in Phase Space
量子っぽさも加味したstochastic thermodynamics(Jarzynskiとかゆらぎの定理とか:なぜかこの文献[1]の引用先が両方arXiv...ちなみにKurchanさんと田崎先生のお仕事)が2000年ころから存在したらしいが,これらはtwo-point measurement schemeというものに則っていたらしい.
ちなみにこういう話のレビューとして昨年こういう本が発売されたらしい.
しかし,この理論的扱いは実験的に実現不可能っぽいという問題があった...らしい.
この論文ではこの問題点を解決するために半古典的扱いを採用しているらしい.
エネルギー保存則,H定理,ゆらぎの定理などがこの方法で再構成できた上に実験的にも検証可能なアプローチの提案になっていると主張されている.
[2303.05558] Optimal active particle navigation meets machine learning
Active particles(特にmicrosimmersが想定されている?)のnavigation関係のショートレビュー論文.
特に機械学習を用いたものに重点を置いているらしい.
2010年代前半から目指す応用先にtargeted drug deliveryとか書いている論文が多かったけどこの10年でどういう進展があったのか気になりどころではある.
機械学習を使って目的達成のためのマイクロスイマーデザインにどのように役立てられるのかイメージが沸かないがこれを読めば最新動向が追えるのだろう.
[2303.05589] First order alignment transition in an interfaced active nematic
実験的セットアップが理解できなかったが,passiveな液晶とアクティブゲルの境界にアクティブネマティクス層が形成されている?
温度の変化に応じてpassive層が二次相転移をするが,それに伴って境界のアクティブネマティクス層がなぜか一次転移っぽい傾向を示すという論文?
粘弾性体中の拡散は履歴効果のおかげで複雑になる.
そこに進行方向のメモリ効果も持つ自走粒子を入れてみたろ,という論文.
ここでは数値計算と理論解析を用いてアプローチしているらしい.
図1のような系を考えたということだと思う:モノマーが4本のsemi-flexible filamentを生やしたActive particle(AOUP?)になっている.
そんなのも確かにありか,という面白い系.
図2のMSDのplotがmain resultの一つだと思うが,ペクレ数のちょっとした変化で様々な複雑な異常拡散(super-もsub-も)パターンが見えていて面白い.
図2はめちゃくちゃ複雑そうで手に負えなさそうに見えるが,Activenessに起因する部分のみに対して理論的予測を得ている.
図4ではMSDのactivenessに起因するpart(全体からPassiveなときの値を引いてactive partの見積もりとしている)のみが実際に理論予測に従って気持ちよくcollapseされる様子も示されている.
すごい.
[2303.05718] Tradeoff of generalization error in unsupervised learning
汎化誤差について教師あり学習では色々検討されてきてるけど教師なしのときは真面目に考えられていないのではないか?という論文.
大事そう.
【A】3/8登場分(3報)
最近タイトルの【A】を付ける意味がわからなくなってきた.
(一応,arXiv論文の紹介ですという意味です)
コンビニスイーツとかも紹介したいけど写真撮る前に食べてしまうんだよなぁ.
写真はないけど最近だとローソンのいちびこ亭コラボ商品はだいたい美味しかった.
特にいちごクリームチーズサンドとどらもっちはすごく良かった.
個人的に待ちに待っていた論文がついに現れた:めちゃくちゃ面白い数値計算手法の提案論文.
Deformable particlesをしっかり表現するための手法としては粒子の集合体で表す方法やPhase field法など色々提案されてきたが,表現能力や計算時間の観点で色々限界があった(Phase field法の論文初めて見たときは感動したけど).
この論文は高い形状表現能力を保持しながら計算負荷を大きく下げられるめちゃくちゃ賢い手法を提案している(1CPUで10^4粒子を扱っているということなので,MDくらいの感覚でdeformable粒子のsimulationができるということになる:もちろん興味のある時間スケールには依るが).
発表を聞くとすごくきれいなモデリングなので「ほ〜なるほどね〜」と思ったけど,後から自分で再構成しようとすると全然できなかったので論文を心待ちにしていたのであった.
この手法では各粒子の形状をフーリエ成分で表現するというOhta-Ohkumaモデル的な考え方を採用している.
さらにPhase-field感のある粒子場的なものを考えて自然と粒子間の排除体積効果を入れたのが一番のポイント・・・か?
これによって形状変化の効果もしっかり考慮しながら,粒子の並進・回転ダイナミクスが単純な常微分方程式の束で扱えるので小さい計算コストで大量の粒子を扱うことができる.
この手法は粒子がミチミチの高密度になったときにも問題なく使えるというのがめちゃくちゃ良い点で,色んな未解明問題(非生物の高濃度粒子系についても)に切り込める重要なツールになるのではないかと個人的には思っている.
この論文ではActiveな推進力の効果を運動方程式に取り込んでいて細胞の硬さ(=形状をcontrolするパラメータとみなせる.たぶん)およびActiveな推進力を振ったときの相図を調べている.
結果Vertex modelを用いて似た検討を行った先行研究(論文1,2)と整合した形状パラメータの位置に相境界が現れるという面白い結果が観察されている.
モデル詳細が違ってVertexモデルにはない自由度があるので(?)相境界で分かたれる各相の振る舞いは定性的に違ってはいる.
各相の性質についてKTHNY理論の二段階転移的な観点でも踏み込んだ解析がなされている.
[2303.04044] Models of Mixed Matter
Mixed matterという概念についてのレビューらしい.
混合系というものには三種類あるということらしい:マクロ混合系,ミクロ混合系,そしてメソ混合系.
マクロ混合系は熱力学的相分離というか,マクロなサイズの相Aと相Bが相分離している状態(気液相分離とか).
各相を特徴づける長さスケールがミクロな長さからよく分離していて,システムサイズとcomparaになっているというのが重要.
特に,熱力学極限を想定するので表面の効果は通常無視できると考えられる.
ミクロ混合系はミクロな構成要素がよく混ざり合っていて多成分系だが多相系ではない状態.
最後のメソ混合系がこの論文のターゲットで,一方の相の中にそこそこの大きさの相がランダムに分布しているようなのがtypicalな状況らしい.
こういうメソ混合系はめちゃくちゃいっぱいあるよということで具体例が12節にわたって大量に紹介されている.
その後メソ混合系を扱うための理論的な道具立てが12種類紹介されている:ここは割と一般的な話が多そう.
その後割と具体的な系を対象にしたspecificな数理模型が23個紹介されている.
最後にはmicroscopicな要素(ミクロ混合系ということなんだと思う)についての章が設けられている.
ページ数は参考文献抜いても103ページ,参考文献470.
PACS numberめっちゃ多くてワロタ.
[2303.03795] Sandpile Universality in Social Inequality: Gini and Kolkata Measures
興味深いタイトル.
【A】3/7登場分(3報)
細胞サイズの膜の中にポリマーを閉じ込めると相分離現象が観察されることが以前報告されていたが(論文1,2:さらに数値計算も),この現象について知見が深まったという論文.
既報では2つのポリマー成分の混合系でこうした現象が報告されていたが,この論文では1成分系でも同様の不均一性が生じることが示されている.
2成分系での当該現象を対象にした実験・数値計算の結果から短い鎖長のポリマーの方が高い膜濡れ性を示すため,短い鎖は膜表面に,長い鎖は中心部に集まる傾向があることがわかっていたらしい.
そこで1成分系でもポリマー鎖長に分布があったら閉じ込め効果による相分離が起こるのではないか?という仮設を立て,それを実際に検証している.
膜でできた液滴のサイズを変化させながら液滴内の拡散性を細かく測定し,閉じ込めによる相分離のようすを調べている.
結果として,異常拡散の度合い・回転拡散には閉じ込め効果が観察されない一方,並進拡散はあるサイズ(細胞と同程度の20ミクロンくらい)より小さな系では顕著に小さくなることが報告されている.
この拡散性の変化が相分離(つまり中心付近への長鎖長ポリマーの局在:こいつらは高粘度やし形成するメッシュも小さい)に因るものであることを示すために追加で短い鎖を注入したり工夫も凝らしている.
濡れ性の評価を行うためにこの論文でもMD計算が実施されている.
めちゃくちゃ難しい系なのに着々と理解が進んでいてすごい.
Confluentやのにgrowingなん?と思ったが縦方向にみちみちで,横方向に成長していく過程を想定しているらしい.こういうときにもconfluentと言うのか...
こういう系を数理モデリングしてもこれまでは大きなシステムサイズの挙動を見るのがなかなか難しかったそうだがこの論文では格子ボルツマン法を用いたアプローチを提案して巨大なサイズも相手にできるようにしたらしい.
そして細胞組織の界面成長のようすを観察してあげるとKPZ普遍性クラスと思しきscalingが観察されたらしい(Bulk driven growthというstateの場合).
細胞分裂が成長エッジに局在している場合は別のinstabilityがでてくることも発見したらしく,それを説明する理論も提案できたらしい.
知識がなさすぎて①細胞組織のモデリングとしての妥当性,②今回のsetupの下で界面成長がKPZになる非自明さ,という大事な2点が理解できなかったが,それぞれが十分だったらめちゃくちゃおもしろい結果だと思う.
HeLa細胞のコロニー成長のようすがKPZだという話があると竹内さんの物性研究の資料でも紹介があったが,この論文の語り口的には完全にはコンセンサスが取れてはいなかったよということなのかもしれない?
いい感じの数理モデリングを行って検証してみたらやっぱりKPZぽかったというのが前半の主結果か?
[2303.03057] Hamiltonian Dynamics and Structural States in Two-Dimensional Active Systems
二次元のmicroswimmer系を考えると,非圧縮条件もあいまって流れ場がstreamfunctionを使って書けるはずなので有効Hamiltonian記述できるでしょ,という論文(xとyが共役になる).
特異点的なものはleading orderについてのみ見てもStressletとRotletが存在するが,この論文では前者にfocusしている.
こういうアプローチで流体力学的相互作用による多体系の集団運動特性のようなものを数値計算で調べたり線形安定性解析を行ったりしているぽい.
最終的にシステムはエスカレーターstateと著者らが呼ぶ独特の集団運動パターンを見せるらしい.
アプローチはユニークで面白いが,Microswimmersの集団運動特性にはfar-fieldの影響は効いてこず実効的な衝突ダイナミクスが大事という話があるので(論文1,2),素朴により現実的なmicroswimmers系に拡張しても今回の話のような現象は観察されにくいのではないかと感じた.
エスカレーターstateは少なくとも僕は見たことがありませんが,粒子の大きさも考慮した場合にはトルクの影響によって不安定化されてしまうような気がする.
どういう状況をうまく記述するのかという観点で,もう少し詳細な模型の結果と比較して対応領域が見つかったら素晴らしいなと感じた.