【A】9/9登場分(1+2報)
おなじみの"Spin Glass Theory and Far Beyond - Replica Symmetry Breaking after 40 years"の第23章はレプリカ対称性の破れを実験的に検証した話を扱うらしい.
なぜかarXivのシステム部分のタイトルは『大事なことなので2回言いました』みたいになっている.
このNature Communications論文のイメージが強いし,チャプタータイトルもめっちゃそれを意識しているが,そこにいたるまでにもrandom laserの理論についての概説等があり,上記夏コミ論文はref.65になっている.
これはすごく良いレビューだと思う.
文献ページを抜くと25ページで図は16枚.
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[2209.03464] Aqueous foams in microgravity, measuring bubble sizes
泡の実験を行った際に写真から泡のサイズ分布を正確に測定するのは難しいということで機械学習的手法を用いたりしているようだが,主眼がどこに置かれているかはわからなかった.
[2209.03468] Generation of Giant Soap Films
上の論文と同じ著者ら.
めっちゃ大きいsoap film作るで!という論文.
filmの挙動は単純な弾性フィルムが自重で引き伸ばされるようなモデルで記述できるらしい.
【A】9/8登場分(3+5報)
[2209.02937] Topology of vibrational modes predict plastic events in glasses
ガラスに外場を与えた際に観察される塑性変形を外場印加前の構造から予測したい人間は結構多いハズだ.
塑性変形はShear transformation (ST)というlocalな配置換えで起こると考えられているが(もっと言うと基本的にはとことんlocalなT1 event的なneighborの組み換えが素過程と思って良いと思う),さらにこのSTが近年話題の局在振動モードに対応していることがわかってきている.
そのため局在振動モードやそこに少し非線形性の効果まで加味してみたものなど様々な指標が提案され,それらと塑性変形との関係が調べられてきたが,なんかイマイチ『これやで!!』という対応関係が見えてこなかった.
この論文では二次元系を対象にして,局在振動モードだけではなくて高めの値も含む様々な周波数のモードを拾ってきて,それらのモードの固有ベクトル場が持つトポロジカル欠陥に注目しようねという新しい観点を提案している.
-1の欠陥の場所と塑性変形が発生する場所に強めの相関があるという話.
もちろん周波数依存性についても議論していて,低周波ほど寄与率が高そうなことなどが示されている.
相関がめっちゃくちゃ高いというわけではなさそうだが非常に面白い観点の解析だし,定性的な解釈も納得感があるものだった.
他の色んな指標と関連付けて議論したりシステムサイズ依存性を見たりすると有意義そう.
[2209.02922] How Surface Roughness Affects the Interparticle Interactions at a Liquid Interface
著者的にも『表面roughnessの効果かぁ...摩擦とshear thickeningの関係とかそのあたりの話かなぁ?』と思って中を見てみたら結構違う話だった.
気液界面に異方性粒子を置くと表面のひずみの効果(と信じられている)で引力が働くらしい.
表面がroughになっているコロイドでも同様の引力が観察されるらしい.
そうなのか.
この論文ではコロイド表面のroughnessをcontrolしながら密度も変化させ,気液界面でのコロイド集団の相状態を実験的に調べている.
対応する数値計算も行っている.
コロイド表面をどのように処理したらroughnessがcontrolできるのかは想像もつかないが,SEM像を見るとたしかにしっかり変化している.
(どうでもいいがroughになるにつれてより美味しそうに見える.)
かなり高密度でも引力が作用しているらしく,Jamming転移前にpercolation転移のようなものが観察されるというのが主結果だと思う.
特にコロイドゲルに似ているらしい.
さらにroughnessの導入によって転移点が小さくなり,結晶秩序も小さくなることが報告されている.
[2209.02802] A general theory of two-dimensional melting: the Gaussian-core model explained
二次元の相転移理論としてはKTHNY理論が有名だが,この理論には『一次転移が記述できない』,『転移点の具体的な値の予言能力がない』などの欠点があった.
この論文では自己無撞着変分近似という手法とくりこみ群の方法を組み合わせることで定量的に転移点を予測することを可能にしたらしい(図2でガウスコア模型の数値計算結果と相図を比較している:普通の平均場と比較すると桁違いの精度になっている).
さらに一次転移の予言能力もあるらしい(この点はどこに対応するのかわからなかった).
めちゃくちゃすごい手法だと思うが,二次元特有の性質をどこかで使っているっぽい(詳細は一切追っていないが結言パラグラフでの今後の展望の言い回し的にそんな感じがする)?
手法のお気持ちだけでも要チェックや.
####以下はReview論文
[2209.03173] Machine Learning for High-entropy Alloys: Progress, Challenges and Opportunities
######以下2報は例の本"Spin Glass Theory and Far Beyond - Replica Symmetry Breaking after 40 years"のいずれかの章.
[2209.02825] Dynamical Heterogeneity in Glass-Forming Liquids
[2209.02829] The Jamming Transition and the Marginally Stable Solid
第何章かのネタバレを防ぐ目的か,いずれも第一章ということになっている.
『お!動的不均一性が記念すべき1章か.挨拶的な章は第0章扱いか』とか思っていたら『こっちも第一章やないかい!!www』となった.
ちなみに先週列挙だけしてた論文のうちの一つである,ecology系におけるglassinessについての章が第27章らしい.
何章構成の予定なのだろう?
######以下2報はそれぞれPhs. Rev. Fluids,Nat. Commun.で出版が決まった論文らしい.
粉体層が水面に崩れ落ちた際に発生するimpulse waveについての予測モデルを提案しているらしい.
水層が浅いというのも重要そうだが,特定条件下での津波の予測モデルとして捉えることもできるらしい.
[2209.03206] Surface melting of a colloidal glass
図がめっちゃキレイやからsimulationかと思ったら実験らしい.
二次元ガラス薄膜の表面を観察している.
ガラス転移点よりごく低温でも表面には液相ができていて,その下にはバルクと同じ密度やのにダイナミクスが速い領域が存在するらしい.
【A】9/7登場分(8報)
9/5がアメリカの祝日(Labor Day)のためか,昨日はarXivの更新がなかった.
しかし,世界中の人達が同じように休むわけではないので今日は2日分まとめて出てくる形になっていたので結構な報数が上がっていた.
逆に一日あたりにアップロードされる論文の数はだいたい同程度になっているということなのだが,その点はすごく興味深い.
各カテゴリに出てくる論文の数の統計を取ってみると面白いかもしれない.
ちなみにMaterial ScienceはSoft matter,Statistical physicsやDisorder and neural net等と比べると毎日倍程度の25本くらい論文が出ている(ちなみに残りの3カテゴリはだいたい同じ程度で9~13本くらい).
そのまま研究者人口の数を反映していると思うと,materialっぽさがある論文はmaterialもsubカテゴリに追加して投稿しておくと,より多くの人に見てもらえるのではないかと思う.
一方で,今日のように祝日後ですごい数の論文がいっぺんに現れると,読み手側としては少しsurveyが雑になる傾向が出てきて見逃しも発生しやすくなる気がする.
そう思うとarXivに論文を投稿する際にはアメリカの祝日前後は避けた方が良いのかもしれない?
ガラス物理の解明はとても難しいので,理論や数値計算ではまずは主に問題をとことん簡単にしてただの丸っころをたくさん集めた際に観察されるガラス転移を調べるのが主流になっていた.
しかし,実験的には分子を扱うためただの丸っころではない.
そのためか,実験的には一般的な数値計算のセットアップでは再現できない特殊な緩和現象が観察されることが知られていた:これがタイトルにあるJohari-Goldstein 緩和(JGB緩和)である.
これは回転自由度に起因すると考えられていて,特に,証拠もなくなんとなくみんな回転自由度があるせいでエネルギー地形になんか階層性が現れるのだろうというフワッとした解釈が与えられていた(たぶん).
なぜずっとフワッとしていたかというと,これを直接数値計算で観察することが技術的に極めて難しく誰も手を出せていなかったからである.
大変な計算を行ってみないとJGB緩和が実際に観察されるかわからない問題もあって本当に大変だったようだ.
この論文では色んな手を尽くして頑張ってJGB緩和を示す系・条件にたどり着いたところがまずすごい.
さらに,観察できましたで終わりではなくて,みんながフワッと持っていた解釈が実際に正しいことを数値的に証明しているところがもっとすごい.
「数値的に証明するったって,どうやるんだ?」という話だが,そこはかなり手が混んでいて,『分子重心の緩和』『原子レベルでの結合の緩和』『分子レベルでの結合の緩和』の比較や『実ダイナミクス』『対応するinherent structure』など色んな観点で検証を行っている.
JGB緩和についてのミクロな描像を確立できたと言える成果ではないかと思う.
[2209.02342] Internal mechanical dissipation mechanisms in amorphous silicon
Two-level systemの話をする論文なのだが,abstractやintroductionでは熱い重力波検知器押しがなれていた.
ついでに量子コンピュータへの言及もなされていた.
量子コンピュータへの言及はたびたび見かけるけど重力波検知器の話は初めて見た気がする.
[2209.01271] Geometry-controlled phase transition in vibrated granular media
擬二次元(薄い実験系を鉛直に立てているのでシステムはxz平面内:zが鉛直方向)の粉体層の底面を加振した際の挙動を実験的に調べている.
容器の底面の形状を変化させたら結晶秩序が出やすかったり出にくかったりするという話.
セットアップは大きく異ってair-fluidized系だがこの論文に少し内容が似ている.
さらにもっと関係ないがAir-fluidized粉体粒子が熱的なゆらぎを示すというこの論文の結果は自分で再現してみないことには心の底から信じることはできないなぁと思う(疑っているわけではないけど).
実験してみたい.
[2209.02301] The Influence of Particle Softness on Active Glassy Dynamics
Active glass系でActivenessの強さを変化させながら緩和時間を測定すると両者の間には非一様な関係が観察されることが知られていた.
しかし,この知見は粒子間相互作用がquasi-hard sphere系のときに限られていたので,近距離での極端なpotential形状の影響が大きいのかactivenessのintrinsicな性質かは判然としなかった.
柔らかいpotetialにして似た検討をしみてこの点を明らかにしたいよ,というはっきりした論点出発の論文.
quasi-hard sphere系での検討ではActivenessが持つpersistence lengthがcage sizeと一致したときにrelaxationが最もenhanceされることが知られていたが,この辺の知見も含めて柔らかいpotentialでも定性的な違いは見られなかったらしい.
粉体実験でsofteningを観察する話だと思う.
[2209.02592] Quasicriticality explains variability of human neural dynamics across life span
脳みそはcriticalityを利用している,というような話が愛は二次転移論文でも言及されていたが,ホンマにcriticalというよりsusceptibilityが最大になるparameter領域にあるよ,というquasicriticalityという考え方があるらしい.
この論文ではそういう考え方に則ってデータを解析してみたら,実際実測データがほぼほぼscaling lineに乗ったよ,という話.
scaling lineというのはneuronal avalancheのsizeとdurationが示す臨界指数の関係を示す直線のこと.
Neuronal avalancheというのはあるニューロンが発火したときに次々に関連ニューロンが発火してavalanche的に一定の塊が発火する現象のことだと理解している.
大きなデータベース上の色んな人のデータを解析してみたら,だいたいどのデータも一つの直線の周りに分布するように見えるが,年齢と性別に依存して直線上のどのあたりに分布するかの傾向が現れたとのこと.
[2209.02292] Emergence of universal scaling in weather extreme events
異常気象が問題になってきている昨今,今後どの程度異常気象の発生が期待されてしまうのかはみんなが気にしているところ.
この論文では温度(特にday-to-day air temperature difference)の統計を具に調べてなにかuniversalっぽい振る舞いが見えているということを報告している.
extreme events(測定対象を大きい順に並べた時の上位1%のもの,とかいう定義:具体的に上位何%とするかの値は色々検討している)の大きさの分布はGumble分布,extreme events間の時間はGamma分布に従うらしい.
有限サイズ効果を調べると(たぶん全地球上のデータをsubsetに分割している?)scalingがrobustっぽいという結果になっているらしい.
興味深いけどにわかには信じがたい(いい意味で).
[2209.01476] Learning the Dynamics of Particle-based Systems with Lagrangian Graph Neural Networks
粒子軌道から支配方程式を読み解く系の新しい手法の提案論文ぽい.
従来は難しかった(?)dragがある状況などでも上手くいくよ,というのが売りか?
【A】9/5登場分(5報)
[2209.00703] Topological packing statistics distinguish living and non-living matter
問題設定がめちゃめちゃおもろい.
"How much structural information is needed to distinguish living from non-living systems?"
という論文.
何を言うてるんや?という感じやけど,実際構造に違いが出るらしい.
上記問に答えるために色んな系で測定しまくって構造の"地図"を作ってみたで,という話.
地図には生物さんサイドから『bacterial biofilms』『zebrafish brain matter』『embryonic tissues』たちが,物理サイドから『colloidal packings』『glassy materials(このカテゴリ幅広ないか?)』『stellar configurations』が参戦している.
一部はsimulation dataらしいが,基本的に実験データを使っているらしい.
これもうほぼスマブラやろというくらい色々考えている.
この地図上で生物系は独立した島状の部分を構成するので物理系とは明らかに異なる構造上の特徴を持つことがわかると結論づけている.
細胞分裂とか成長とかそういう過程での接着の効果などが大事なんだろうなぁと結論付けられている.
難点を挙げるとpassiveサイドで細胞みたいに柔らかいものを使った検証がされていないようなので柔らかさや変形能の効果という線が完全には排除できていないかなぁという感じがした.
結論がめっちゃ面白いだけにそこは気になる.
こういう難しい問題に取り組むために三次元点群のトポロジーを区別するための方法を考案したというのが最大のポイントか?詳細は追えていないがドロネー分割に基づいてなにかをしているらしい(びびるくらいわからんかった).
このScalliet論文で扱われたようなMarginaly stable相的な温度サイクル下でのrejuvenationとかmemory効果を生み出すことのできる格子模型を提案するという論文.
real-space pictureであるというのとactivation processのみによるというのが特徴.
ベースになっているのはcluster modelという粗視化格子模型らしい.
知らない...
ちょっと面白いのは,最後のpartで上記Scalliet論文の解釈に疑義を投げかけている点.
ScallietらはAgign過程の変位の確率分布の結果を『Agingには全粒子が寄与している』と解釈しているが,今回のarxiv論文の著者はagingはlocalな配置換えで進行するはずでScallietらはin-cageの振動を見とるんやろうと主張している.
Agingみたいな不可逆な配置換えはlocalizeしたeventの蓄積に決まってるやろという主張.
確かにそんな気もするけどもしGardner相的な性質もあるならそこが変なことになっていても良い気もしてなんとも言えない.
粒子シミュレーションで実際に変位の様子を観察したらどちらが正しいかははっきりしそうなので是非検証してみてほしい.
もしかしたらどっちも正しくて,いたるところでlocalizeしたイベントが次々発生するからtotalでは全粒子が等しく寄与しているというpictureかもしれない?
[2209.01134] Metastability of Constant-Density Flocks
Toner-Tu模型で均一一定密度場(?)を考えた場合について解析的に知られていた(?)scaling則を数値的に確認したという話らしい(?).
それと同時にconstant-density flocksというのはmetastable stateに過ぎなくてglobally disordered phase consisting of asters surrounded by shock linesになりがちらしい.
色々あるんだなぁ.
[2209.00924] Giorgio Parisi's scientific portray: Complex Systems and much more
Parisi氏のノーベル物理学賞受賞を記念した記事をCugliandoloさんが書いている.
ParisでのParisi氏の話もあったりして個人的な側面にフォーカスした記事なのかなと思いきや急にスピングラスの話が始まる.
引用を除くと15ページ.
トピックとしては
4章:スピングラス
5章:確率過程
6章:Computer design & observational methods
となっている.
6章は特殊用途計算機の設計についての話だった.
そういうのにも貢献されていたとは知らなかった.
[2209.01138] Time Evolution of a Supply Chain Network: Kinetic Modeling
サプライチェーンネットワークをごりごりモデル化して,色々あってオイラーラグランジュ方程式を導いたりする話らしい.
【A】9/3登場分(3報)
[2209.00572] Dissipation indicates memory formation in driven disordered systems
アモルファス固体は本質的に非平衡系で,非平衡系ということは過去の履歴に物性が依存するだろという話が前提にあって,そういう履歴の効果を実験的に調べる方法を提案しましたよという話.
もちろん一般に任意の履歴を調べる方法などないので,かなり問題を限定している:一定の振動せん断ひずみを印加し吸収状態転移を示した状態を出発点にしている.
この研究では吸収状態に入ったあとにさらに様々な振幅で振動外場を印加した際の系の応答を観察する.
この場合,吸収状態に転移させた際の振動外場(以下トレーニング外場と呼ぶ)の振幅が過去に経験した最大の摂動に相当するようになる.
その後のprobing外場の振幅がトレーニング外場の振幅未満のときは粒子変位は閉軌道のままだが,振幅がトレーニング外場以上になると不可逆な構造変化を示す.
この不可逆な構造変化に伴ってマクロには応力の不連続な変化やacoustic emissionが観察されるし,サイクルごとに応力応答のようすが変化するので,その辺りの異常性が検出される臨界値として履歴効果を定量評価可能という話.
先行研究で知られた知見に対して本質的な差分を見出し理解を飛躍的に進めた,という話とうよりは既知のものを組み合わせてしっかり実験的に検証し,プロトコルを提案できましたという話だと思う.
特にreference dataであるミクロな構造の情報が取れる場合・取れない場合の両方で実験しているのが面白かった.
[2209.00350] Active microrheology of colloidal suspensions of hard cuboids
Active microrheologyをMonte Carlo simulationで検討してみる話だが,なんと板状(あるいは角柱状)粒子浴の中にprobe粒子を入れて外力で牽引した際の応答を調べている.
具体的には有効摩擦係数を測定し,定量的な評価指標としている.
浴粒子の形状をcontrolするパラメータを一つ導入した際,そのパラメータ依存性が非単調になるという報告になっている(濃度依存性も調べている).
え!?というセットアップだが,実際に実験を行う際にはbath粒子が非球形であることのほうが一般的であることを考えると大事な知見といえる.
著者らも言及しているとおりlocalな秩序形成などが効いてくるのかもしれないし,慣性モーメント的なものがシンプルに効いてくるのかもしれないし,回転自由度と形状のcouplingを介して相関長が伸びたりする効果があるのかもしれない.
(外場なしの状況では検討を行った範囲ではglobalな方向秩序は形成されない条件で計算しているらしい)
このように系が複雑化した際の影響を個別各論的でなくsystematicにincludeした理論を構築することはいつか可能になるのだろうか?
Abstractの一文目がめちゃくちゃかっこいい.
Geometric thermodynamics(日本語でいうと幾何学的熱力学?)を提案するで,と明言されている.
ここ数年著者が発表してきた情報幾何学的観点での非平衡熱力学の解釈が体系だってきたからしっかり一分野として確立させていこうという感じのShort review論文的な位置づけと思われる.
これはとても嬉しい.
主題になっている5章の内容は先日の同じ著者の論文で見かけてから気になっているのでこの論文でしっかり勉強させていただきたい所存.
【A】8/30-9/1登場分
先週末からひどくバタついているのでリストだけメモ.
結構面白そうなタイトルがならんでいる.
2,3日でこんなに溜まってしまうというのは絶望やな?
[2208.13747] Atomic Origin of Annealing Embrittlement in Metallic Glasses
[2208.12839] Dynamic Flow Control Through Active Matter Programming Language
[2208.13057] Locality of gapped ground states in systems with power-law decaying interactions
[2208.13633] Liquid-liquid transition in water from first principles
[2208.14956] Glassy features and complex dynamics in ecological systems
[2208.13892] Atomistic Nature of Amorphous Graphite
[2208.13842] Protein folding is governed by memory-dependent friction
[2208.14187] Down-hill creep of a granular material under expansion/contraction cycles
[2208.14366] Coarse-graining amorphous plasticity: impact of rejuvenation and disorder
[2208.14083] White-noise fluctuation theorem for Langevin dynamics
[2208.14443] Steady state correlations and induced trapping of an inertial AOUP particle
【A】8/26・29登場分(2+2報)
諸事情で最近ばたついておりますのでたまってしまった.
8/26登場分:2報
[2208.11899] Low-Frequency Vibrational States in Ideal Glasses with Random Pinning
ガラスの低周波の異常な局在振動モードが理想ガラス相でも存在するかを調べた論文.
理想ガラス転移(=カウツマン転移:配置エントロピーがゼロになるということ)を数値的に実現できるランダムピニングという手法を用いている.
めちゃくちゃおもしろい論点設定だと思った.
結論としては理想ガラス系でも局在モードはありそうやし,振動状態密度はよく知られた4乗則を示すらしいし(),ボゾンピークも出るらし.
ちなみにランダムピニングを使うと,低周波モードを調べる際に鬱陶しい局在振動モードとphononのhybridizationが解けるという利点もあるとのこと.
同様の手法によって二次元でも巨大系での検討が可能になって最近の二次元低周波モードのべきについての論争に直接答えを与えられるかも?
Vertex modelというconfluent細胞系の数理モデルにおいてshape index(=二次元でいうと細胞周長と面積の比)を変化させるとゼロ温度でのrigidity転移が観察されるという話がある.
理論的にしっかり理解はされていなかったが,SAT-UNSAT転移にmappingして平均場理論を作ってみたという論文.だと思う.
8/29登場分:2報
[2208.12311] Gibbs-Bogoliubov inequality on Nishimori line
Ising spinグラス系で西森ライン上での自由エネルギーの見積もりについての不等式を検証したというような話らしい.
[2208.12310] Designing minimally-segregating granular mixtures for gravity-driven surface flows
2粒子混合系ではsegrigation(大きさの異なる二種類の粒子をいい感じに混ぜていたのに何らかの要因で自然と分離してしまう現象)が起こってしまうことが多々ある.
斜面上で重力によって流れていく粉体系を対象に離散要素法を使ってsegrigationが起きにくい条件を探ってあげようという研究.だと思う.